神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

文藝

編集者と作家の距離

昨日の逍遥の日記に出てくる木呂子は春陽堂の木呂子斗鬼次だが、野上弥生子の日記には次のように記されている。 昭和3年9月28日 春陽堂の木呂子夕方訪問、明治大正文学全集の件。父さんがそのうち帰宅、伊豆栄にごはんたべに連れて行く。当然御馳走になる気…

日本写真史に一石を投じる発見か

田辺聖子の祖父・父は写真館を営んでいたことは、NHKドラマ「芋たこなんきん」でよく知られることとなった。 田辺の「ハガとアイスクリン」(『新潮』平成9年1月号、『田辺聖子全集』第24巻)によると、 私のウチの写真館は祖父が明治三十年代後半に…

遠藤周作の神秘主義

遠藤周作 昭和23年慶應義塾大学仏文科卒。25年6月フランスの現代カトリック文学を研究するため横浜港出航。 日記*1によると、 昭和26年1月26日 ぼくは、今、フロイトの本などもよみ始めているのだが、それは全く、人間のなかのほのぐらい部分をみつめたいか…

李香蘭と堀田善衛

堀田善衛は李香蘭(山口淑子)のボディガードをしていたらしい。 「『戦後派」その文学的出発(1)」*1によると、 埴谷 堀田君は、八月十五日以後、どういうふうにして暮らしていたの? 堀田 ぼくのイトコに、昭和通商という参謀本部の直属会社で、蘇州で軍…

池田彌三郎と伝書鳩

池田彌三郎は、伝書鳩を飼っていたことがあるらしい。 『銀座十二章』によると、 さて、泰明小学校は、わたしが卒業した年(昭和二年)の暮れに、震災後のバラック建築を建て直すことになり、当時、滝山町一番地(今の西六丁目)にあった、朝日新聞社の旧館…

『江戸川乱歩小説キーワード辞典』に「比佐子」あり

『江戸川乱歩小説キーワード辞典』(東京書籍、平成19年7月)は高いので座り読み。 カフェー、上山草人、山窩、神保町、谷崎潤一郎、図書館、古本屋なども立項されている。 「鳩、ハト」を見ると、6作品に登場しているらしい。そのうち、伝書鳩として登場す…

森類の結婚前後

『森茉莉かぶれ』を読んだ。だからというわけでもないが、弟の森類の結婚前後の様子を幾つかの日記で見かけたので記録しておこう。 昭和16年1月10日 六時森類氏にまねかれ妻と行く。新婚の女、その父母(安宅安五郎夫妻)、小堀四郎、杏奴。まり同座。九時か…

山田風太郎一家の見た東京タワー

『山田風太郎育児日記』(朝日新聞社、2006年7月)によると、 昭和35年2月16日 一家ではじめて東京タワー見物にゆく(日記本文参照)。 「日記本文」とは、山田が昭和17年11月25日以来つけていた日記のことだが、この頃の分はまだ刊行されていない。『育児日…

宮武外骨が夢野久作批判

宮武外骨が『スコブル』第6号(大正6年4月)中の「地獄耳」で ▲杉山茂丸は其日庵と称して、時代遅れの七五調の文章で馬琴張りだと云つて喜んでゐるが、その茂丸の子が又大の駄文家で、父を真似て一日庵と称し、方々の雑誌に其の駄文を寄稿しては編輯者を弱ら…

九州文壇と夢野久作

『ドグラ・マグラ』の著者として、また、国士杉山茂丸の息子として知られる夢野久作。 日記でその名前を見るのは珍しい。 原田種夫『九州文壇日記』(叢文社、平成3年2月)を見ると、 昭和8年3月21日 山田と介春氏のところに行く。夢野久作氏が来ていた。新…

夏目房之介と三田平凡寺

『日本の有名一族』は「へえ〜」と思うことばかりで、指摘するようなことは一つも見当たらなかったのだが、夏目房之介の母方の祖父が三田平凡寺であることが記されていないという意見も出ているらしい。わしも漱石の孫とは覚えていたが、平凡寺の孫とは知ら…

市河彦太郎と女流作家

外交官だった市河彦太郎については、小谷野敦『日本の有名一族』で、鶴見祐輔の姉の娘かよ子の夫として言及されているので、今後知名度がアップすることだろう。既に紹介したように、市河はスメラ学塾の講師だったし、藤澤親雄、谷川徹三、大佛次郎らと共に…

ショップガールも論じた北澤秀一

日本で最初にモダンガールという用語を使用したとされる北澤秀一の名前をみかけた。 吉見俊哉「帝都とモダンガール」(バーバラ・佐藤編『日常生活の誕生−戦間期日本の文化変容』柏書房、2007年6月)によると、 このような都市の百貨店における女性店員の急…

童貞論のパック

岡崎武志氏の書棚には、童貞論の書物がパックされているらしい。 「古本屋の棚から見た新書あれこれ」(『古本生活読本』ちくま文庫、2005年1月)によると、 例えば、私が秘かに目をつけているのが、ちくま新書の押野武志『童貞としての宮沢賢治』、小谷野敦…

世には童貞日記なるものもあるみたい

南陀楼綾繁さんが書いた『童貞小説集』の書評が載った『COMIC Mate』は今日発売みたい。 なんせ××漫画雑誌だから、コンビニでこーそり読もうかしら。 小谷野敦氏の「童貞と学歴」(『ちくま』10月号)によると、『童貞小説集』は、 ほかにも筒井康隆の「喪失…

神保町「ワンダーランド」終焉の謎(その2)

わしも書物奉行氏に負けじと、書店のガイドブックを見る。 本の探偵団編『最新版・本を探す本』(フットワーク出版、1997年5月)によると、「ワンダーランド」は新刊書店に分類されていて、 洋書ワンダーランド(洋書/趣味) 神田神保町1−9 大雲堂ビル3…

最初の露探容疑者長田秋濤(その3)

外骨の『滑稽新聞』56号(明治36年9月5日発行)によると、長田と同時期にもう一人露西亜の犬と疑われた人がいたらしい。 露国の犬 是は其一名を売国奴ともいふ(中略)夫に近頃長田秋濤といふハイカラ文士や、恒屋盛服といふデモ政治屋等が、いつも露国公使…

最初の露探容疑者長田秋濤(その2)

10月9日に紹介した市島春城の日記の明治36年11月4日の条に「就寝後早川[早治]、秋濤事件ニ関し被告ニ無罪之判決を与へし始末を云々す」とあった。素直に読めば、早川という人は、権藤震二を被告とする事件で無罪判決を下した人と読めるのだが、まさか裁判官…

神保町「ワンダーランド」終焉の謎

「本の街日記」さんの御教示により、蟻二郎の古書店ワンダーランドの閉店年が1999年と判明。同店が営業を開始したの1979年10月、当時早稲田大学第一文学部の二回生で、その後大学院に進み、英米文学を学び、晶文社大好きオジサンとなる(もはや過去形とすべ…

童貞ブーム来るか(笑

『ダ・ヴィンチ』を見てたら、「『童貞川柳』発売記念」という記事があった。 小谷野氏の『童貞小説集』(ちくま文庫)も出たところ。 純愛ブームというのは、数年置きに起きるみたいだけど、さすがに童貞ブームというのはなさそう・・・ 今日の日記は、猫猫…

森見登美彦の「京大小説」なるものを見る

森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』を読む。 学園祭が舞台の一つに使われていて、「ビューティフル・ドリーマー」を連想した。 盟友の書物奉行氏が「京大小説」と名づけているものの、特に京大固有の話はないので、京大のことを知らない人でも楽しめるはずで…

神保町ワンダーランドは売れない本の山

本好きの人にとっては、神保町全体がワンダーランドみたいなもの。そのワンダーランドを店名にした古書店がかつてあった。 1979年10月に開店しているが、開店まもないそのワンダーランドをma-tango氏は訪ねたことがあるという。さすが、あの『幻想文学』誌の…

永代静雄と満蒙研究所(補遺)

永代静雄と坂口二郎・大蔵公望について、書き忘れたことがあった。 坂口・大蔵は永代が昭和17年に創設した「大東亜伝書鳩総聯盟」の創立賛成人である。 この創立賛成人については、5月30日に紹介したところだけど、そこで挙げた人の他には、次のような名前も…

 早稲田文学「けものみち」化計画

フリーペーパーの『WB』で「けものみち計画の文豪擬獣化宣言」(文:南陀楼綾繁、画:内澤旬子)スタート。第1回は「内田百輭=フクロウ」。「nanakikae」さんの「日々是懶夢」も開始。凄いことになってきやがった。 - 小谷野敦「わたしの好きな学者たち」…

永代静雄と満蒙研究所

永代静雄は、田山花袋「蒲団」の田中秀夫のモデル 本邦における『不思議の国のアリス』の最初の翻訳者 「永代湘南」名義でSFを執筆(横田順彌氏の説) 新聞研究所の創設 伝書鳩の愛好家(3月23日、5月30日参照) として知られているが、別の顔を発見した。…

「同情するなら金をくれ」と、坂本紅蓮洞言い

奇人と言えば、この人も挙げておかねば。グレさんこと、坂本紅蓮洞。同じく奇人として知られる宮武外骨の『スコブル』14号(大正6年12月)の「地獄耳」によると、 ▼例の坂本紅蓮洞は竹本綾之助方の家庭教師に成つて、息子に数学を教へて居たが、それも縁切れ…

大賀寿吉と坪内逍遥

民間のダンテ研究者大賀寿吉が坪内逍遥の日記に出てきた。 大正10年11月26日 午前九時三十八分 東京駅より特急ニテ大阪行(中略)車中にて大阪の薬種商、もと同志社出身 ダンテ研究の大賀寿吉と会談、夜八時十八分梅田着、石割、毛利、士行、辰巳正直ら八九…

森見登美彦と吉田寮

『小説現代』9月号での森見登美彦と柴崎友香の対談。 柴崎 (前略)私、吉田寮(京都大学吉田キャンパス吉田南構内と隣接する自治寮)でのイベントとか行きましたよ。 森見 ほんまですか!?僕は学生寮の類いには足を踏み入れたことがないんですよ。知り合い…

大阪の奇人岡田播陽

辻潤の周辺にいた奇人。『癡人の独語』(書物展望社、昭和10年8月、『辻潤全集』3巻)所収の「おうこんとれいる」によると、 知人にも坊さんがいる。高光大船氏などはそのひとりであるが、毎月送ってもらう「直道」という氏の個人雑誌は私の愛読するところで…

豊島与志雄も平井金三の教え子か

恒藤恭と同様平井金三に英語の教えを受けたと思われる久米正雄が、次のように書いている*1。 豊島君は日常茶飯の間にも、彼の小説に現はるゝ如き、妙な神経から来る神秘の世界が実際あるらしい。其の点に於いて、彼はメエテルリンクの一面とひどく共鳴するら…