神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

夏目房之介と三田平凡寺


『日本の有名一族』は「へえ〜」と思うことばかりで、指摘するようなことは一つも見当たらなかったのだが、夏目房之介の母方の祖父が三田平凡寺であることが記されていないという意見も出ているらしい。わしも漱石の孫とは覚えていたが、平凡寺の孫とは知らなかった(又は失念していた)。確かに、房之介の『読書学』(潮出版社、1993年7月)所収の「奇人・三田平凡寺のこと」に

私の思い出では、もう祖父は晩年で、寝たきりであった。あとで話をきくと気難しくて、こわい人でもあったようだが、私にはそういう思い出はない。祖父も私をずいぶんと可愛がったらしい。「房ちゃんや、房ちゃんや」という声を、おぼろげながらおぼえている。(略)
じつのところ、私にとって“おじいちゃん”というよび方のできるのは、会ったこともない漱石ではなく、この奇人のほうである。そのせいもあって、何だか平凡寺氏の血が今の私の仕事にも影響しているような気がしてしようがない。


とある。


私もそうだが、平凡寺の名前は、山口昌男の著作を通じて覚えた人が多いと思われる。平凡寺に一章が割かれている『内田魯庵山脈』(晶文社、2001年1月)を見てみると、

夏目家に出入りしていた中村某が平凡寺の猫の写真を漱石に進呈すると言って持って帰った。三十年経って夏目純一に平凡寺の末娘が嫁いだ。その子息が、同じ『異彩天才伝』の雨田*1の文章の前に「祖父のことなど」が収められている漫画家夏目房之介氏である。


内田魯庵山脈』と、荒俣宏選『異彩天才伝−東西奇人尽し』(福武文庫、1991年12月)のどちらも、とっくの昔に読んでいるのだから、房之介と平凡寺の関係をすっかり忘れてしまっていたのだね。


山口の書*2によれば、淡島寒月は、平凡寺の妻の親戚だし、寒月の伯父(父椿岳の兄)伊藤八兵衛の娘は渋沢栄一の再婚相手。また、寒月の長女キヤウの婿は木内辰三郎ということで、これまた閨閥はどんどん広がってきりが無い。


漱石を房之介の祖父という言い方をする人はいないだろうが、平凡寺は房之介の祖父として記憶されることになるのだろうか。


平凡寺と言えば、『月の輪書林古書目録』の最新号は、平凡寺特集だったね。東京堂書店ふくろう店にも売っていないから、いつか誰ぞに見せてもらわねば。

*1:雨田光平

*2:内田魯庵山脈』及び『「敗者」の精神史』