神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

2010-03-01から1ヶ月間の記事一覧

大正期の通信図書館

『現代仏教』創刊号(大正13年5月)に「通信図書館を御利用下さいませ」という広告が載っている。甲子社書房図書館係(東京市麻布区笄町一二六)が営むもので、実態としては郵送専門の貸本屋のようだ。毎月15日に発行する図書目録(五銭)記載の本(仏教書の…

朝日の「文芸時評」は2年の任期ではなかったか

朝日の「文藝時評」。 1994年3月大江健三郎から蓮實重彦にバトンタッチ 1996年3月蓮實重彦から池澤夏樹にバトンタッチ 1998年3月池澤夏樹から小森陽一にバトンタッチ 2000年3月小森陽一から津島佑子にバトンタッチ 2002年3月津島佑子から関川夏央にバトンタ…

星一と皆川三陸(最相葉月『星新一―一〇〇一話をつくった人―』(新潮社)への補足)

もうすぐ新潮文庫から上下で刊行される最相葉月『星新一―一〇〇一話をつくった人―』に出てくる皆川三陸という人物については、2007年5月8日、同月9日、同月12日、昨年7月12日参照。 - 水戸芸術館の『WALK(ウォーク)』は日記特集をして書物ブログでも評判だ…

島田謹二と安藤更生

島田謹二の自伝「この道あの道」に、大正8年に入学した東京外国語学校英語学科時代のこととして、 特に仏語学科の連中は、隣の教室にいるので親しかった。常連は川村重和とか、安藤更生とかである。(略)安藤は後年美術史家として名をあげたが、そのころは…

大陸講談社の『ますらを』と満洲雑誌社の『満洲良男』

西原和海氏の論考「関東軍の慰問雑誌『満洲良男』と『ますらを』」『彷書月刊』平成20年8月号によると、昭和13年3月頃関東軍司令部により慰問雑誌『満洲良男』創刊。昭和15年5月頃大陸講談社から『ますらを』と改題して刊行。更に、『満洲良男』と旧誌名に復…

檀一雄と藤山一雄・山崎末治郎

檀一雄は、昭和15年12月召集解除となるが、再召集をおそれ渡満。翌年10月の帰国まで満洲各地を歴遊。檀の『青春放浪』によれば、満洲で知り合った知識人として、藤山博物館長、山崎図書館長、杉村満日文化協会理事、武藤弘報処長らをあげている。杉村は杉村…

矢田部一族も

柳田國男の妻孝の長姉順は、植物学者矢田部良吉の妻である。良吉は、『新体詩抄』の編著者の一人としても知られる。良吉の四男達郎は心理学者。普通の人は知らない人だが、森茉莉のファンは皆知っている。茉莉の夫山田珠樹の親友で、茉莉とはパリで親しくな…

静岡の松尾書店

静岡の古本屋松尾書店が阿部次郎の日記に出てきた。 昭和18年5月12日 夕食後静岡の松尾書店主来訪 松尾書店は、『全国古本屋地図 改訂新版』(昭和53年2月)によれば、昭和3年開業。夜店から今日を築いた努力家で、傍ら侠客の研究をやっていることでも知られ…

大久保康雄詳細年譜

猫猫先生が断念したという大久保康雄の伝記だが、例によって詳細年譜は作りかけていただろうか。 年譜が存在するのであれば、追記してほしい事項を発見。 中島敦の妻たか宛昭和16年10月1日消印の書簡に、ヤルート滞在中に竹内虎三という役人に会い、昭和14年…

明治41年における雑誌の発行部数

東京朝日新聞(明治41年8月26日〜28日)が雑誌の種類別に毎月の発行部数の一覧を掲載してくれていた。 「出版界の趨勢」と題したもので、家庭向の雑誌、青年少年門、実業雑誌、農工部門、政治法律門、教育学術界、宗教哲学界、文学美術雑誌、此他の雑…

表参道の山陽堂書店

なにやら表参道の山陽堂書店がうわさなので、調査。 『昭和十年版全国書籍商総覧』によると、 山陽堂 萬納孫次郎 [住]赤坂区青山北町六丁目一四 明治元年10月24日岡山県船着町生。21年上京、24年3月現地に、書籍・雑誌・文房具の販売を開始・新聞売捌業を兼…

酒井勝軍とハルマゲドン

小磯国昭の自伝『葛山鴻爪』に、シベリア出兵で英語の通訳官の酒井勝軍と初対面したことが書かれている。 酒井君は特色を帯びたクリスチャンであつた。其の出生地は山形県の上の山で、其の実家は往年筆者が両親に伴はれて住んでゐた鏡橋の同じ家であるといふ…

小谷野敦『日本の有名一族』に漏れたる加藤シヅエ 

『第十四版大衆人事録』(昭和17年10月)で廣田孝一を見ると、鉄道技師兼電気庁技師、本府工博理太郎長男、明治29年3月生。家庭:母敏子(明治8)鶴見祐輔姉、弟洋二(明治32)、妹静枝(明治30)は男爵石本恵吉に、同嘉代(明治34)は静岡県市河彦太郎に、…

新・日本文壇史第2巻の参考文献に『里見とん伝』はあがるか

岩波の新刊案内によると、新・日本文壇史第2巻『大正の作家たち』は4月15日発売。斎藤茂吉・志賀直哉・若山牧水・島木赤彦らの激しい恋、志賀直哉と里見弓享の絶交、文士賭博事件、波多野秋子と有島武郎の心中など、文壇の事件が活写されるという。今度…

官僚たちの初夏

昨日は、夏が来たかという所もあったようだ。さて、『官僚たちの夏』である。この小説は、主人公風越信吾が通産省大臣官房秘書課長だった時から始まるが、モデルの佐橋滋はその前は石炭局炭政課長であった。その頃の他の登場人物のポストを見てみよう。佐橋…

荷風のベレー帽を盗んだ古本屋

永井永光『父荷風』によると、荷風の葬儀の時に、『断腸亭日乗』の原本が盗まれないよう対策をとったという。しかし、他の物が盗まれた。 実際に物が盗まれました。ベレー帽と埋葬書で、犯人は市川のマーケットの古本屋でした。出棺のときの写真にも写ってい…

田中貴子先生とクトゥルー神話

先日田中貴子先生が、「クトルー神話」に言及していたが、こういう表記は最近ではあまり見たことがない。 「Cthulhu」について、『クトゥルー神話事典』にあがっている表記は、クトゥルーのほか、クルウルウ、クトゥルフ、ク・リトル・リトル、チュールー、…

つぶれてほしい古本屋

何年も前のことだ。支払ったはずの古本屋から再度請求書が来た。「あなたは会員ではないので、送料が必要だ。送料を負けてほしければ会員になれ」というような手紙も入っていた。ここは、会員になると、送料が無料になるのだが、私は会員になっていなかった…

閔妃暗殺と織田純一郎

角田房子が亡くなっていたというので、閔妃暗殺関係の話。 李相哲『朝鮮における日本人経営新聞の歴史(一八八一−一九四五)』によると、明治27年12月、陸奥宗光外務大臣は、井上馨朝鮮駐在公使に朝鮮文新聞発行者として織田純一郎を推薦しようとしたという…

小川書店の小川勝蔵

小川書店の経営者の経歴が判明*1。 小川書店 小川勝蔵 [住]麻布区新堀町一一 明治28年1月15日現在地に生る。大正7年書籍業に志し、京橋区銀座の街頭にて古本の夜店を開業。同8年くに子と結婚。 9年12月現在地に店舗、昭和4年現在の木造洋風の店舗を新築、7年…

里見とんと渡辺光子という女

『日本近代文学館』152号、1996年7月15日の「里見弓享書簡(一)」所載の書簡のうち、2通が他の文献では読めないものである。 一つは、昭和17年8月14日付け三宅三郎宛書簡で、「御高著御恵投」への礼。もう一つが、昭和35年5月23日付け土岐善麿宛で、「渡辺…

宮武外骨と坪内祐三の曽祖父織田一

明治36年3月から7月まで大阪の天王寺で第五回内国勧業博覧会が開催された。ところが、博覧会事務官の農商務省会計課長松田四郎が博覧会工事請負人から収賄するという事件が発生。宮武外骨の『滑稽新聞』は、織田一など他の博覧会事務官にも疑いの目を向け攻…

酒井勝軍のエピゴーネン石河光哉

大大阪本として知られる伊達俊光『大大阪と文化』(金尾文淵堂、昭和17年6月)に驚くべき記述がある。昭和10年10月23日大阪市公民大学での講演「東西藝術の交流」の大意だが、その中の次のような記述。 (略)ピラミツドの元祖も我日本に存在せりと云ふ説を…

ガンダルフを大統領に!

「ガンダルフを大統領に!」というスローガンは、猫猫先生もどこかで言及していたが、私が最初に知ったのは、おそらく評論社文庫の『指輪物語』第1巻*1の瀬田貞二の「訳者あとがき」である。 本国のイギリスでは、比較的冷静にトールキンの新作を迎えたよう…

鹿児島県立図書館長奥田啓市

奥田啓市。明治16年福岡県生まれ、41年早大英文学科卒。大正4年日比谷図書館から長崎図書館へ転進、同10年2月から昭和19年4月まで鹿児島県立図書館長。確認できないが、戦後再び日比谷図書館に勤めたという。奥田が長崎図書館の司書だったときの話が、大谷利…

 『1Q84』の奥付の誤植!?

『1Q84』の増刷年月日で、19刷が本年1月30日で、21刷も同じだったので、当然20刷も同じだと思っていたが、今日現物を確認できて、なんと1月15日だった。そんなのありか?(参考)昨年6月23日追記:BOOK1と2で一致していたはずの増刷年月日が、いつのま…

岸本葉子さんと元総理

戦前下田次郎という教育学者がいた。といっても、その名前を知るのは「はほへほ」氏ぐらいだろうか。少なくとも九男一女をもうけ、昭和13年に亡くなった。三男武三は、外交官・最高裁裁判官・プロ野球コミッショナーを務めた。四男弘は武蔵工大名誉教授、七…

明治大学SF研究会と大西尹明

川瀬広保『SFファン48年』(近代文芸社、2009年1月)は、明治大学SF研究会の創立者によるエッセイ集。同書によると、同研究会は1968年1月創立、会長はレイ・ブラッドベリ『ウは宇宙船のウ』(創元推理文庫)の訳者で明治大学教授の大西尹明(おおにし,た…

西周夫人升子の日記に出てくる坪内祐三の曾祖母の母

手塚律蔵(のち瀬脇と名乗る)の次女好子は、坪内祐三の父方の曾祖母の母に当たるが、一時期西周の養女となっている。西夫人升子の日記*1に登場する。 慶応2年3月25日 今日、佐倉より兄様よし子同道御出に付、三日御泊の事。西へは誰がゆくかと皆あつめてた…

もてない留学生はカナダの魔窟を放浪したか

オリンピックでカナダの日本人社会も盛り上がったことであろう。百年前の1910年にもカナダの日系移民を驚かす出来事があった。バンクーバーの大陸日報社から日本人経営の売春宿の実態を暴露する『加奈陀の魔窟』が発行されたのだ*1。この本は稀覯書で、国会…