神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

内田魯庵『文学者となる法』(右文社、明治27年)異装版を大阪古書会館で発見・・・と思いきや

 
 今月の大阪古書会館「たにまち月いち古書即売会」で、内田魯庵が「三文字屋金平述」の形式で書いた『文学者となる法』(宮澤俊三発行・右文社発売、明治27年4月)を発見。古本横丁の和本400円均一台に紛れていた。表紙が本来の表紙と異なっているので、「わっ、異装版か」と思ってしまった。しかし、貸本屋が付けた表紙だった。中に本来の表紙があり、エピグラフには「貸本安井」と印が押してあった。



 他に押された印は、貸本用表紙の裏と貸本屋用裏表紙の前に押された「安井印」だけである。貸本仕様の本には通常、住所・店名や料金が記載された印が口絵を含めてやたら押されているものなので、本書のように簡単な印が3箇所だけというのは珍しい。おかげで、エピグラフに続く*1小林清親による木版画の口絵は虫喰いがあるものの綺麗である。
 この口絵については、中野三敏宗像和重十川信介・関肇校注『風刺文学集(新日本古典文学大系明治編29)』(岩波書店、平成17年10月)*2で次のように解説されている。

口絵 文学者を揶揄する図。松並木の舞台を、遊女・芸妓風の女性に迎えられて、文学国へ男たちが延々と列をなしてやって来る。いずれも馬(ロバ?)または鹿に乗り、フロック・コートにトルコ帽、直衣に烏帽子、羽織・袴に山高帽、裃にちょん髷など多種多様。指標の文字は「是より文学国」「骨あるもの入るへか(ら)す」「名物骨ぬきだんこ」。座敷では先客の遊冶郎が寝そべり、桂冠詩人となる未来、バッスル・ドレスの女性たちとの「結んでひらいて」の遊戯、女性との舟遊びなど、楽しい夢にふけっている。


 本書は、国会図書館デジタルコレクションで見られるものと同じく186頁の次は奥付である。一方、日本近代文学館による『近代文学館:名著複刻全集特選』版では186頁に続いて広告4頁がある。同全集の作品解題篇(日本近代文学館、昭和46年5月)で瀬沼茂樹は、原本は広告4頁付きのものとないものの2種あり、どちらが先か判別しかねるが、広告付きの日本近代文学館所蔵本を底本にしたという。
 「日本の古本屋」には、3件出品されて7万5千円のものが残っている。家蔵分は読んだら、秋の皓星社で開催されるであろう一箱古本市で放出しますか。
 

*1:国会図書館デジタルコレクションでは口絵の次にエピグラフがあるが、多分並べ間違いだろう。

*2:『風刺文学集』の十川信介「三文字屋金平の登場まで」によると、底本は「大学院生時代に恩師野間光辰先生から頂戴した初版本」である。