神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

酒井勝軍とハルマゲドン

小磯国昭の自伝『葛山鴻爪』に、シベリア出兵で英語の通訳官の酒井勝軍と初対面したことが書かれている。

酒井君は特色を帯びたクリスチャンであつた。其の出生地は山形県の上の山で、其の実家は往年筆者が両親に伴はれて住んでゐた鏡橋の同じ家であるといふことを聞いて一驚を喫し又奇遇を喜んだ。夙に米国に留学して牧師となり軍部に対し深く反感を抱いてゐた。日露戦争直前、帰朝して以来、軍内部の非違欠陥を内偵するのを目的とし、英語通訳として従軍し、戦争間絶えず軍隊の内情に親炙したのであつた。然るに朝夕、上下各階級間及び軍人相互間の雰囲気に接して見た結果、厳正な軍紀服従の間に美しい温情が流露してゐる実状を知り、多くの非違欠陥が包蔵されてゐるものとのみ思つてゐた従来の反感は、全然見当違ひの観察であつたことに気付き、今回の西伯利亜出兵に方つてもまた再び此の雰囲気を味ひたく、旁々猶太系統に属する露国人に就きフリーメーソンの真相を極めようとする希望を以つて従軍したといふのである。殊に面白いのはクリスチャンでありながら、戦争神聖論の高唱者であることである。其の理由とするところは、聖書が悪魔は終に滅亡されねばならぬ事を説いて居り、そして戦争は悪魔を亡ぼし真の平和を招来する行為であるといふのであつた。尚、同君は聖書から帰納して世界将来の運命を予言し、日本こそは本当のシオンであり世界最後の戦をハルマケドンで勝ち取る国柄であると唱へ、且つ従来行つた同君の予言が全部的中してゐることを、既往に於ける同君の発表記事と世界事象の現実とを対照して証明すると同時に、ハルマケドンに於けるシオンの勝利も亦必ず的中するに相違ないと述べるのであつた。同君は後年、四王天中将と共に猶太研究の権威として広く社会から知られるに至つた。

酒井は昭和15年7月没。ハルマゲドンとも言うべき大東亜戦争で日本が悲惨な結末を迎えることを知らずにすんだのは、幸いだったと言うべきか。

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三省堂書店8階なう(の予定)
五反田もあるか・・・

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15年前の某事件は、月曜日だったから古書展はなかった。誰ぞは、某図書館への通勤途上であったか。
あの日は、わしは体調が悪く、病院の待合室にいたのであった。

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今日の朝日の別刷「うたの旅人」は、井上陽水の「最後のニュース」と筑紫哲也だ。
小説現代』4月号。出久根氏の連載は先月号で終了しているが、広告には名前が入っている。講談社しっかりせえ

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嗜み』新装刊1号は「読書の愉楽」特集。
鹿島茂氏が、善行堂、アスタルテ書房、キクオ書店、山崎書店などを案内。
嗜み〈No.6〉特集 読書の愉楽