神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

酒井勝軍のエピゴーネン石河光哉

大大阪本として知られる伊達俊光『大大阪と文化』(金尾文淵堂、昭和17年6月)に驚くべき記述がある。昭和10年10月23日大阪市公民大学での講演「東西藝術の交流」の大意だが、その中の次のような記述。

(略)ピラミツドの元祖も我日本に存在せりと云ふ説を私の友人が唱へてゐます。此人は欧州を五回、中央アジア辺も旅行し、勿論埃及にも赴き、瓜哇に日本民族の起源を探るなど東西の世界を断えず跨にしてゐる洋画家石河光哉君で、彼は、その世界的眼光を以て更らに日本神代の研究に指を染め、近頃私の手許に送つて来た謄写版刷の日本旅行記に飛騨高山における五万年前の平面ピラミツド探訪と考察、更らに広島県比婆郡本村にある御神体ピラミツド石訪問の事を記し、神代文字の詳密なる研究を示してゐます(略)

これだけ見ると、石河光哉なる洋画家がピラミッド日本発祥説を唱えたと思ってしまう人もいるかもしれないが、勿論本来の提唱者は酒井勝軍である。酒井は、前年の昭和9年に広島の葦嶽山ピラミッドを発見して、同年7月『太古日本のピラミツド』(国教宣明団)を刊行している。石河という人物は、酒井や竹内文献の関係者の中で見た覚えはないが、昭和10年の段階で葦嶽山や飛騨高山を訪問しているとは、筋金入りのピラミッドマニアである。この画家は、『20世紀物故洋画家事典』によると、

石河光哉(いしこ・みつや)1894−1979 明治27年長崎県生。大正10年東京美術学校西洋画科卒。同年帝展に初入選。戦後の昭和21年秋の日展に入選。のち無所属。54年4月25日歿。享年85歳。

この人の書いたという謄写版刷の日本旅行記、なき上野文庫ならいくらの値段を付けただろうか。


(参考)ウィキペディアの「酒井勝軍」。非常に詳しい。

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弥生美術館で、4月2日(金)〜6月27日(日)「谷根千(やねせん)界隈の文学と挿絵展−弥生美術館周辺を舞台にした“ものがたり”−」展があるようだ。

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幸い生まれてこの方入院も手術も経験がないので、闘病記とかはまともに読んだことがない。しかし、オタどんもそろそろいい年になってきたので、岸本葉子さんの『がんから始まる』(これも晶文社だ)を読んでみた。明るく読める闘病記であった。岸本さん(本名・下田昌子)の父親は、戦時中に結核になったため、学業を中断して療養につとめたという。下田家は東大出身者が多いが、やはり父親も東大かしら。

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3月12日〜21日、「第1回三省堂書店神保町本店 春の古書市」というのがあるらしい。
http://www.books-sanseido.co.jp/blog/jinbocho/2010/03/31221.html