神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

佐野繁次郎装幀の『昭和六年新文藝日記』を持つ西村賢太と西村義孝

 
 個人の蔵書目録を読むのが好きで、図書館が所蔵する個人文庫の目録を集めたことがあった。多くは早川図書というその手の専門店から入手したものである。
 さて、『西村賢太旧蔵資料目録』(石川近代文学館、令和6年3月)を読んでいたら、色々発見があった。藤澤淸造・西村賢太著以外の「その他作家著書」として、大正12年と13年の『新文章日記』(新潮社)、大正15年~昭和7年の『新文藝日記』(同社)があった。淸造が『根津権現裏』(日本図書出版、大正11年4月)を刊行した年から亡くなる昭和7年1月までと重なる。最初はもしや淸造の日記かと思ってしまったが、淸造自筆の原稿や書簡は「近現代作家資料」の方に分類されているので、違うことになる。
 『新文藝日記』の昭和6年版は佐野繁次郎装幀で、「佐野繁次郎装幀の『昭和六年新文藝日記』(新潮社、昭和5年)ー『新文藝日記』の装幀者群像ー - 神保町系オタオタ日記」で紹介したところである。

 毎月の「題辞」・「尖端人は語る」・「季節の風景」・「我が郷土」には、文壇の大御所のほか、江戸川亂步、國枝史郎龍膽寺雄といった現在でもマニアの対象となる作家も執筆している。そのほか、「文藝一年画史」と題した口絵写真、「昭和五年文壇概観」、「文壇一年史」、「現代文士録」などが載っている。ざっと見た限りでは、淸造に関する記述は「現代文士録」だけであった。『藤澤淸造全集』を計画していた賢太が淸造の活躍していた時期の文壇事情を調べる資料として揃えたのであろう。
 『昭和六年新文藝日記』は、もう一人の西村、佐野繁次郎装幀本(佐野本)のコレクターである西村義孝氏も所蔵しておられる*1。『佐野繁次郎装幀集成:西村コレクションを中心として』(みずのわ出版、平成20年11月)の段階では未所蔵であったが、先月(令和6年6月)刊行された増補版15頁に書影が収録されている。刊行記念の展覧会「佐野繁次郎の仕事展:装幀本を中心にデザイン含めて」が6月8日~15日東京古書会館で開催された。7月13日~27日には、広島の書肆翠で「銀座百点展ー佐野繁次郎のモダン装幀」が開催される。→「書肆翠 Shoshi Sui - exhibition
 京都でも是非開催していただきたいものである。
 

*1:青木正美『自己中心の文学:日記が語る明治・大正・昭和』(博物館新社、平成20年9月)31・32頁で、青木の手元にある『大正九年文章日記』(新潮社)、大正11年と13年の『新文章日記』のほか、大正15年、16年、昭和4年と6年の『新文藝日記』に言及されている。また、「データベース化事業 – 近代日本の日記文化と自己表象」によると、福田秀一日記コレクションにも含まれている。