神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

2006-07-01から1ヶ月間の記事一覧

早稲田大学図書館を追われた毛利宮彦

昨今のバカ者は、うっかり留学させて箔を付けさせると、帰国後すぐにやめて転職したりしてしまうが、戦前そのような無節操な若者はいなかったはずである。 ところが、大正4年から5年にかけて、ニューヨークのパブリック・ライブラリー付属ライブラリー・ス…

『『食道楽』の人 村井弦斎』余話(その9)

6 坪内逍遥と村井弦斎 日記は、元々公開を予想していないため、第三者が読んでも意味不明の記述が多い。これが、欠点でもあるのだが、また、一種の魅力にもなっている。 坪内逍遥の日記にも、色々謎が潜んでいる。 『未刊・逍遥資料集一』から引用すると、 …

『『食道楽』の人 村井弦斎』余話(その8)

5 弦斎ファンだった文豪 日露戦争開戦後の、明治37年4月、弦斎の愛読者であった当時21歳の青年が、歌舞伎座で弦斎原作の「桜の御所」を鑑賞していた。彼の日記(全集第11巻)を引用しよう。 明治37年4月9日 (略)新橋に着く(略)歌舞伎に行く 一番目は…

南陀楼綾繁・内澤旬子御夫妻の名前を見かける。

先日、ゲットした営団、じゃなくて「東京メトロ」のフリーペーパー「メトロポリターナ」(7月10日発行)の「book」コーナーで、内澤旬子さんの『センセイの書斎』が紹介されていた。その一部を引用すると、 本書では、緻密なイラストルポによる、31人の書斎…

プチ・ブル的図書収奪

中生勝美氏の民族研究所に関する論文については、佐野眞一氏の著書に言及されているが、現物を見たら面白いことが書いてあった。岡村敬二氏や、東條文規氏の著書にも書いてないと思ふ。「民族研究所の組織と活動−戦争中の日本民族学」(『民族学研究』62巻1…

早稲田大学図書館員毛利宮彦の謎

「書物蔵」に出会わなければ一生覚えることもなかったかもしれない「毛利宮彦」という名前。あちこちで見かけたので、だれぞのために報告しておこう。 初代早稲田大学図書館長市島春城の日記(「翻刻『春城日誌』。「早稲田大学図書館紀要」49号)から。 大…

別冊 まるごと一冊金尾文淵堂(その3)

3 内田魯庵と金尾文淵堂 三村竹清(三村という人物について、詳しくは山口昌男『内田魯庵山脈』参照)の日記から。 明治43年11月5日 内田君来る 内田君話二与謝野晶子の短冊ほしゝとて、前年金尾文淵堂に頼ミ 已に三年を経たり 昨日文淵堂来り 五枚出…

別冊 まるごと一冊金尾文淵堂(その2)

2 市島春城と金尾文淵堂 市島春城(初代早稲田大学図書館長)の日記から 明治42年8月14日 晴。早朝金尾種次郎(文淵堂)、内藤虎次郎の紹介状を齎らし来り、朝鮮海印寺高麗蔵経原版を以て、或る部分を刷行し、之れを世に頒布セんとする計画を報す。余…

 別冊 まるごと一冊金尾文淵堂

金尾文淵堂については、石塚純一『金尾文淵堂をめぐる人びと』を見ていただくとして、幾つかの日記の中で金尾文淵堂の名前を見かけたので、記録しておこう。 1 鷗外と金尾文淵堂 大正元年10月26日 金尾種次郎来て与謝野晶子が二十九日に神戸に着くこと…

『『食道楽』の人 村井弦斎』余話(その7)

4 水島幸子、「女だてらに」新聞記者(承前) 女性記者水島幸子については、平凡社創設者の下中彌三郎とも関係があって、『平凡社六十年史』(昭和49年6月)にも名前が出てくる。 [下中彌三郎は]昭和三十八年になると、かねてから希望であった「婦女新聞…

『『食道楽』の人 村井弦斎』余話(その6)

4 水島幸子、「女だてらに」新聞記者 「スタール博士」といい、最近ググると「古書の森日記」がひっかかることが多いが、水島幸子もその例外ではない。 「婦人世界」明治43年12月号で「白百合」に例えられた婦人記者水島幸子。 黒岩さんは、既にお気づ…

『『食道楽』の人 村井弦斎』余話(その5)

3 大賀一郎と櫻澤如一をつなぐ蓮(承前) 蓮と言えば、ハス博士の大賀一郎を思い浮かべる人も多いだろう。 また、黒岩さんの『村井弦斎』では、「日本の近代食養思想の先駆者ともいえる存在」である「石塚左玄からは多くの弟子が育ったが、その中で最も有名…

『『食道楽』の人 村井弦斎』余話(その4)

3 大賀一郎と櫻澤如一をつなぐ蓮 国書刊行会の『少雨荘書物随筆』収録の「湘雨窓漫録」には、 以上が咄嗟に拾ひ出した明治の重版書であるが、落ついて調べたならまだいくらも出て来るかも知れない。村上弦斎の『小猫』や『日の出じま[ママ]』や『食道楽』と…

『『食道楽』の人 村井弦斎』余話(その3)

2 時ならぬ料理ブーム 坪内祐三、ならぬ坪内雄蔵が、催眠術書にハマっていた明治36年は、村井弦斎が報知新聞に食道楽を連載した記念すべき年でもあった。 「食道楽」の連載や単行本の発行による、「食道楽ブーム」については、黒岩さんの著書を読んでいた…

『『食道楽』の人 村井弦斎』余話(その2)

医者もどきだったら、載ってはいないだろうと思いながらも、『静岡県の医史と医家伝』(土屋重朗)を見ると、何と医者であった(同書393頁、496−497頁)。 山崎増造は安政六年(1859)周知郡犬居村の生まれ、明治七年同地区の小学校の訓導補、…

『『食道楽』の人 村井弦斎』余話

図書館ネタばかり続けると、天の声が「こりゃ!」と言っている気がするので、「文學界」で「歴史のかげに“食”あり」 (第1回は「ペリーの口には合わなかった日本料理」)という連載のスタートをした黒岩比佐子さんへのオマージュ(盗作という意味じゃないよ…

「出版ニュース」で妄想する

「出版ニュース」7月上旬号の「本の周辺 私のコレクション」で岡崎武志氏(評論家)の「婦人雑誌の付録本」を見る。「大正末年から昭和初期の婦人雑誌の付録本を集めだしたのは、昭和八年「主婦之友」七月号付録『赤ちやん全集』からだった。」という。 4…

シュメールにハマッタ慶應義塾図書館員

図書館史の本は、社史の類よりは、読む気にさせるものではあるが、一般的にはつまらないものであろう。 ところが、『慶應義塾図書館史』(昭和47年4月)は笑いながら読める。 同書中の「戦時下の図書館運営」に登場する井上芳郎なるズショカンインは興味深い…

東大図書館のもう一つの分捕り品

「翻刻『春城日誌』(二)」(「早稲田大学図書館紀要」第27号)中明治36年5月18日の条に、 十一時より和田万吉(帝国大学図書館長)を図書館に訪ふて館中之設備を見、終に帝室より永代預となりたる喇嘛経(日清戦役黄寺より分捕たるもの)、其他珍書若干を…

詩人と伝書鳩

高橋輝次『関西古本探検』で、「伝書鳩」関係の話を見た。『詩人黄瀛(こうえい) −詩集<瑞枝>復刻記念別冊−』(昭和59年、限定千部、蒼工舎)を採り上げ、詩人黄瀛(こうえい)について、 多くの人が印象的に触れているのが、軍隊では伝書鳩の係の隊長…

中田邦造館長も買い上げ失敗

『書物捜索 下』(横山重著)の次の一節。 江東の焼けた日の翌日、日比谷の図書館長なる人が来て、文化財保護という立場から、私の和本を買ってくれると言った。私は、渡りに舟として、帙入りの和本二千何百を渡した。洋装本は無代で提供すると、私の方から…

情報官鈴木庫三とクラブシュメールの謎(番外)

3 やはり春陽堂の編集者だったか、仲小路彰 高橋輝次『古本が古本を呼ぶ』には、次のように記されていた。 この本[小田嶽夫『文学青春群像』]で(中略)昭和初期の春陽堂の文学関係の編集者として難波卓爾と仲小路彰がいて、二入とも、坪田譲治に敬意をいだ…

情報官鈴木庫三とクラブシュメールの謎(番外)

2 上林暁と小島威彦(承前) 例によって、余談だが、「満田巌」という改造社の出版部にいた人物についてついでに述べるが、彼もスメラ学塾に関わる人物である。 「特高月報」(昭和17年11月分)の「運動日誌」11月13日の条には、 スメラ学塾に在りては本月…