神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

書砦・梁山泊で貰った短歌好きの青年が書いた『文学日記:大正十五年』(聚芳閣)

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 コロナ騒動前に書砦・梁山泊京都店で日記を貰った。ありがとうございます。私が日記好きなのを知っていて、用意しておいてくれたようだ。『文学日記:大正十五年』(聚芳閣、大正14年11月)へ書き込まれた日記である。1度ざっと読んでみたが、こういうのは時間を置いて再度読んだ方がよいので、しばらく放っておいた。しかし、今回読んでも半分も解読はできなかった。もっとも、記載量は少なく、2月が13日分、10月が24日分、12月が19日分だけで、他の月は一桁の日数分しか記載されていない。
 判明したのは、滋賀県に住む22歳の男性であること。また、大正15年2月の途中まで書いた後、受験勉強に専念していたようで、中断した後に昭和3年2月から日記を再開している。元々ある程度学歴はあったらしく、一部英語で書かれた日もあった。その後大阪高商(現大阪市立大学)や関西学院などを受験して、どこかには合格したようだ。『文学日記』を使う位なので、文学好きで『藤村読本』や『子規全集』第5巻(歌論歌話及評論)を購入し、日記の記載も多くは短歌である。あっと驚くような記載はなかった。気になるのは、昭和3年10月27日の条に「今月から近江商人資料展の準備」とあるのと、伊吹山へスキー合宿に行った同年12月28日の条に「対山館」が出てきたことである。
 日記の記載内容よりも、日記本体の方が価値があるかもしれない。国会図書館サーチや「日本の古本屋」ではヒットしない。ネットで読める「福田秀一日記資料コレクション」にも所蔵されていない。文庫サイズで、各月の最初は作家の手書きの識語から始まる。中村星湖から始まって、白鳥省吾、福田正夫島崎藤村秋田雨雀川路柳虹徳田秋聲豊島與志雄、?、橋田東聲、谷崎精二、十一谷義三郎と続く。7月の秋聲を挙げておく。
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「大抵の場合自分を書いた作品が拙くとも興味が深い 其他ハ巧くとも空虚だ」だろうか。『日本近代文学大事典』によれば、聚芳閣社主の足立欽一は、秋聲に師事していた。9月が不詳。誰か読めるかしら……
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 「泰西舞台面傑作選」も載っていて、2月はチャペック原作の「ロボツト」である。
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 巻末には、「文士生国一覧表」「文士住所一覧表」「文藝書類出版の書肆」「文藝に関係ある雑誌社」などを掲載。文学青年や文学少女はこれを見て出版社に原稿を送ったり、作家にファンレターを送ったりしたのだろう。大正15年ということで、プラトン社の時代であった。
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 目録で日記の特集をしたこともある股旅堂から「日記は解読に手間がかかるので、どうしても値付けは高くなる」と聞いたことがある。本書には幾らの値段を付けるだろうか。