神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

プロトコールはトンデモだと昇曙夢言い

『科学知識』19巻3号(科学知識普及会、昭和14年3月)に昇曙夢「『プロトコール』の正体」が掲載されている。そこで昇は、ユダヤ人に対する非難の主な動機であり、反ヤダヤ主義者の虎の巻である秘密の書『シオンの議定書』が眉唾物であると指摘している。議定書の解説者ニールスはスホーチンから入手したと言っているが、このスホーチンはロシヤの貴族的反動の中心人物で、このスホーチンに無名の婦人が『三十三階級のシオン代表者会議決議録』を渡したのが、いわゆる『シオンの議定書』の起こりであるという。ところが、その無名の婦人は決議録をシオンの秘密会議に参加した無名の男から手に入れたというが、会議の正体と代表者名は全然不明で曖昧にされている。昇は、こういう経緯から見ても、議定書がユダヤ人虐殺の扇動者たる帝政ロシヤのチェルノソーテン(極右反動団体派)の手になったということは察するに難くないと結論づけている。
戦前の日猶同祖論や反ユダヤ主義的著作はよく紹介されるが、議論の前提となる議定書の真偽を検証した著作には光が当たらないようで、宮澤正典『日本におけるユダヤイスラエル論議文献目録1877-1988』(新泉社、1990年6月)にも記載されていない。デイヴィッド・グッドマン+宮澤正典著、藤本和子訳『ユダヤ人陰謀説ーー日本の中の反ユダヤと親ユダヤ』(講談社、1999年4月)にはユダヤ人陰謀説を批判した人物として、吉野作造満川亀太郎が挙げられている。ロシヤ文学者の昇も今後ユダヤ人陰謀説を巡る議論で注目すべき存在である。

ユダヤ人陰謀説―日本の中の反ユダヤと親ユダヤ

ユダヤ人陰謀説―日本の中の反ユダヤと親ユダヤ