神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

反ユダヤ主義を貫き通した四王天延孝

小田光雄「古本夜話112」は「 四王天延孝『猶太思想及び運動』と内外書房」。四王天のこの本の出版祝賀会が昭和16年8月に開かれたことが、真崎甚三郎の日記に見える。

昭和16年7月17日 渡辺十二時半に来訪、来月四王天の著書出版の祝賀会を行ふにつき、予を発起人の一人に加はることを乞ふ。予は之を諾す。中野正剛も挙げられたりと云ふ。果して真か。

    8月4日 十七時三十分松本楼に至る。四王天中将の猶太思想及運動に関する著書の出版祝賀会に列する為なり。参会者百五十名余、盛会にして堀内、坂西中将、松島元大使*1、中島海軍中将、匠[ママ]瑳*2海軍少将、猪野毛代議士*3等の祝辞あり、最后に予の聖寿万歳を三唱して終り、二十一時半に帰宅す。

注:[ ]は、校訂者による註記。カタカナをひらがなに改めた。

四王天については私も何度か書いているので、経歴*4と併せて一覧にしてみた。

四王天延孝 しおうてんのぶた
明治12年9月2日生
  30年12月士官候補生
  32年11月陸軍士官学校
  37年2月〜38年12月出征
  42年12月陸軍大学校卒・関東都督府陸軍参謀
大正5年8月〜8年3月フランス軍従軍→「ユダヤ論者も伝書鳩が好きだった!?」(2006年4月6日
  9年1月浦塩派遣軍司令部付被仰付
  9年8月工兵大佐
  9年11月関東軍司令部付(ハルピン特務機関)
  11年4月陸軍航空学校教官
  同年9月同下志津分校長
  この頃、民族研究会が結成され、参加する→「星製薬の謎(その2)」(2007年5月10日
  12年8月軍務局航空課長
  13年5月国本社理事
  同年8月少将・兵器本廠付
昭和4年8月中将・予備役
  11年2月反ユダヤの国際政経学会が創立され、顧問となる→同学会については「桜澤如一関根康喜関根喜太郎)(その1)」(2006年5月24日
  同年11月2日増田正雄とともに反ユダヤの国際思想研究所を設立→増田については「国際政経学会常務理事増田正雄の正体」(2008年4月11日
  13年5月国本社理事
  14年3月帝国飛行協会専務理事
  16年7月『猶太思想及運動』(内外書房)を刊行
  17年4月〜20年12月衆議院議員
  18年1月大日本回教協会会長→同協会について「大日本回教協会の評議員」(2008年4月11日
  19年10月21日諸岡存と反ユダヤ主義の大直会を設立→「諸岡存、時代遅レナリ!」(2007年4月14日)、「大直会とはいったいどんな団体だったのだろうか。」(2007年6月13日
  20年12月逮捕
「推薦議員、大直会有力幹部、東亜建設協会理事」を理由として公職追放  
  22年釈放
  37年8月8日没

ユダヤ論者も伝書鳩が好きだった!?」への黒岩比佐子さんのコメントは、次のとおり。ネット上で知り合って、間もない頃だ。

Hisako 2006/04/06 08:11
伝書鳩』の著者です。昨日の相馬黒光のエピソードにも驚きましたが、反ユダヤ主義者と伝書鳩がつながっていたとは! 連日のように目が釘付けになりました。伝書鳩については、知られざる事実がまだたくさん眠っているようですね。続篇が書けるかも……(売れないとは思いますが)。

さて、反ユダヤ主義者としての四王天については、その後いくらか判明したことがあるので、追記しておこう。
まず、民族研究会についてである。同会の常任幹事だった内藤順太郎の『支那フリーメーソン』(国民社、昭和18年5月)の口絵写真には、「民族研究会創立当時の会員(大正十三年)」とあり、陸軍軍人としては小松原道太郎、飯村穣、坪井善明、島本正一、黒木親慶、安江仙弘、秦眞次、中岡彌高、海軍軍人としては前田稔、有馬寛、その他に安岡正篤、若宮卯之助、菊池武徳、樋口艶之助、赤池濃、酒井勝軍の名前がある。また、本文の方では会員として、他に今井時郎、陸軍軍人の樋口季一郎、中澤三夫の名前がある。
次に大直会についてである。昭和19年10月16日付朝日新聞に大直会麹町区麹町一ノ八)による「ユダヤ禍闡明神国顕現大直会結成大講演会」の広告があり、同月21日日比谷公会堂で開催、講師として四王天の他、匝瑳海軍少将の名前が見える。また、20年4月23日付読売新聞には大直会による「敵前国民有志大会」の広告があり、同月28日日比谷公会堂で会長の四王天匝瑳海軍少将、長谷川泰造、武富邦茂海軍少将らの講演が予定されていることがわかる。
また、四王天白鳥敏夫、増田が序文を寄せた松村吉助『猶太民族と世界制覇の陰謀』(冨山房昭和19年4月)で、白鳥の序文によると、著者松村は「多年宗教団体「道会」の主宰者として、又ユダヤ研究の権威たる政経学会の同人として、ユダヤの研究に力を注いで来られた」とある。

以上、四王天をめぐる人脈を見てみたが、内外書房の舟越石治の名前は残念ながら見当たらなかった。
戦前の反ユダヤ主義者はしばしば日ユ同祖論者でもあり、戦後は戦前の反ユダヤ言動について素知らぬ顔をして親ユダヤ主義者を自称したが、四王天については、そのようなことはなかったようだ。

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今年も東京国際ブックフェアの時期になった。誰ぞとかkum-tinさんも出現するか!?

*1:元駐イタリア大使で、大日本回教協会理事長の松島肇か。

*2:正しくは、匝瑳胤次

*3:衆議院議員の猪野毛利榮

*4:秦郁彦編『日本陸海軍総合事典第2版』などによる。中佐以前の階級などを省略した。