神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

小谷部全一郎『日本及日本国民之起原』(昭和8年普及版)へ寄せられた読者の声ーー住谷天来、金子白夢、フレデリック・スタールーー

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 書物蔵氏が、Twitterで「明治、大正期の文芸書の後刷りの末尾には書評も掲載されていた」とつぶやいていた。それで、トンデモ本にも書評が載ってたなあと、普及版である小谷部全一郎『日本及日本国民之起原』(厚生閣、昭和8年1月)を取り出してきた。元版は、昭和4年1月発行*1。巻末に掲載されているのは、書評よりも読者の声が多かった。しかし、その読者の声が面白いので紹介しておこう。
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 まずは、群馬県生まれの牧師、住谷天来。住谷悦治(同志社総長)の叔父。「全く同感共鳴です私も夙に此の考を抱て居りました」だって!天来もこっち(どっちだ?)の人だった……「編者」(小谷部)は、白井卯之助、石川角次郎、茅原華山、秦真次少将も同調者としている。秦は竹内文献の信奉者だった*2ので驚かないが、茅原には驚きますね。「本のリストの本」である宮澤正典編『日本におけるユダヤイスラエル論議文献目録:1877~1988』(新泉社、平成2年6月)を見ても、これらの名は出てこない。日本ユダヤ同祖論も奥深い。
 そして、愛知教会牧師の金子白夢。「私は日本国の起原に就て研究して見たいと平生志して居るのでありますが、今先生の御高著に接し得るところ多く、心から厚く御礼を申上げます」と。「新生会と名古屋文教協会における愛知教会牧師金子白夢 - 神保町系オタオタ日記」など、各方面に顔を出す金子だが、日本ユダヤ同祖論にも参戦していたか。
 フレデリック・スタールも登場する。グリフィスやシーボルト日本民族の起原を失われた支族に求めたとした上で、小谷部のように百有余の典拠例証を挙げて明確に論破したものはないと褒めている。また、「願くは速に貴著を英訳して世界に提示せよ(略)余の名は欧米一般に知られ居るが故に或は貴著英訳のときに巻首に掲げらるゝに於ては多少便益あらんかと考へ余の序文を同封して贈れり之を使用すると否とは貴意に任す」と、英訳の序文も同封した旨記載している。小谷部とスタールの関係については、「お札博士スタールのトンデモ山脈(その4) - 神保町系オタオタ日記」参照。
 そのほか、私にはお馴染みである中国山東青島神社宮司の遠山正雄や聖書学院の中田重治の名前もある。中田は、高橋是清に面会した際に本書を話題にしたら、非常に興味を持ったので送付を勧めている。高橋の周辺にも日ユ同祖論者がいたようで、顧問だった佐々木多門の書簡も出てくる。佐々木は、最近本書を求め読了したとし、「貴下の此種御研究に対する態度は不肖と全然一致」と書いている。また、旧師オドラム博士やカナダ人マッケンドリックも日本人はイスラエル族の出という説を唱えていたという。
 私には未知の人物の方が多いが、皆様があっと驚く名前があるかもしれないので、残りの人名も挙げておこう。

伊藤少佐(第9師団副官)
伴宗孝(福井県)
飯島金八郎(仙台市)
林権助(東京)
木島鄰(医師、神奈川県)
久門商利(日本エール大学会幹事)
中島宙地(熊本県)
水無瀬忠政(子爵、大阪府)
土岐龍洲(常陸光了寺沙門)
香川愷太郎(山口県)
国谷秀(日本アドヴエンテスト教会関東部長)
小池慎蔵(長崎市)
奥村多喜衛(ハワイ)
山田常憲(埼玉県)
西野判事(金沢地方裁判所長)
高原弦太郎(大阪市)
築山好太郎(東京)
田沢良(杉浦先生称好塾友、愛知県)
槙久右衛門(在郷軍人会、山形県)
石井清太郎(東京)
諏訪部一之輔(静岡市)
渡辺緑村(東京市九段詩漢吟詠会主幹)
曽根廉郎(東京)
大石喜十(浜松市日本楽器)
増田貢(青森県五所川原増田病院長)
中村陽吉(十勝国音更コタン)
桑原滋(東京)
高津半造(徳島県)
細矢権吉(仁風会医院、東京)
長岡義雄(神戸市)
伊藤方(富山市)
香川愷太郎(山口県)
吉沢幸平(秋田県)
大庭国男(浜松市)