神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

道頓堀にあった謎の古本屋「古本大学」

八木書店から刊行された『新派名優喜多村緑郎日記第一巻』に戦前道頓堀にあった古本屋「古本大学」が出てくる。

昭和7年3月20日 そこで長いこと食事をして、寺嶋氏の東道で「古本大学」へゆく。聞いた通り、空ン洞の古本の見世、ノツクによつて、その古本が小窓になつてパクリと明く。首実検の上で入るといふ訳である。甚だ狭くかつごちやごちやであるが、多く支那式であつて、二ヶ所にカーテンで区切つて椅子をおく。奥の方がいろいろ仕掛で、怖がらせることになつてゐるとみえる。一二、啼声などをやつてゐたが稚戯にひとしい。器具−−のみものゝ−−はいゝものをつかつてゐる。十二時頃別れて戻る。

古本屋というよりも、この文章からはお化け屋敷かいなという感じである。2007年11月18日に言及した吉行エイスケの発言では、古本酒場かと思っていたのだが。

なお、青空文庫によると、吉行の「大阪万華鏡」(『文学時代』昭和5年4月)には、

 私は西道頓堀の縁切路地の附近にある、古典書にまじって、横文字のマルクス経済学書もあろうと思われる、古本大学の淫書の書架の前に立っていた。

 やがて、淫書の扉がひらくと、濛々(もうもう)とした紫煙のなかの客間(サルーン)から、現実の微細(デリケート)な享楽地帯が眼前にパノラマのようにあらわれた。

とあるようだ。

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先日の日経文化面で皆川博子さんが、「風」と題して、幼時自分の身辺に心霊現象を研究する団体の雑誌や書物が多くあり、その中に『小桜姫物語』があったと書いていた。昭和5年生まれの皆川さんの幼時というから、浅野和三郎編『霊界通信小桜姫物語』(心霊科学研究会出版部、昭和12年)のことだろう。また、戦後の一時期、父がいんちき霊媒にたぶらかされ、我が家でたびたび降霊会が催され、皆川さんが霊媒修行を父に強制されたという。それで、オカルト好きになったかというと、そうではなく、神秘、オカルト、いっさいに強い拒絶反応を持つようになったという。この父親はなんかあやす〜ぃ。