神保町系オタオタ日記

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天才的頭脳の仲小路彰も騙された源義経=ジンギスカン説ーー天神さんの古本まつりで入手した『成吉思汗戦史』(戦争文化研究所)からーー

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 天神さんの古本まつりも本日で終了した。いつものことながら、特に100円均一台が素晴らしかった。今回は、駱駝堂から300円で買った仲小路彰『成吉思汗戦史』(戦争文化研究所発行・世界創造社発売、昭和14年3月)を紹介しよう。「世界興廃大戦史」シリーズの東洋編の第11巻である。このシリーズが数冊棚に出ていた。モンゴル帝国の成立史に関心はないが、目次を見ると「成吉思汗・源義経論」が載っているので、購入。
 仲小路は、「欽定古今図書集成」の『輯勘録』中の乾隆帝序「朕姓源、義経之裔、其先出清和故号国清」の存否、末松謙澄『義経再興記』、小谷部全一郎『成吉思汗は源義経也』に言及した上、次のように書いている。

 固より義経と成吉思汗の同一説は重大なる史的問題であり、軽々に両者の同一を結論するには、なほ精密周到なる研究、検索をなすべきは勿論である。しかもこの問題は、決して単なる空想的憶説、小説的虚構独断論となすには、余りに史的事実の伏在するものあるを知らねばならない。
 (略)かの源義経の事蹟が、日本の文献の中に無いことの理由で、これが蒙古渡航、成吉思汗の問題が荒唐無稽であるとすることに、益々賛同し得ないことを知るべきである。兄頼朝に追捕されんとする義経が、その自らの最後を偽はり、その行衛を不明にしたことは、余りに当然である。

 源義経ジンギスカン説に対してやや慎重な立場を取りつつ、好意的な意見である。そして、同時期に創刊された『戦争文化』(戦争文化研究所発行・世界創造社発売)のアジア問題研究所「東亜維新戦の日本=支那史的理念ーー支那人は日本人なりーー」は源義経ジンギスカン説を明確に採用していて、おそらくこれも仲小路の執筆と思われる*1。仲小路はこの「世界興廃大戦史」シリーズの1冊である『上代太平洋圏』(昭和17年5月)ではムー大陸説を採用していて*2、トンデモない説を色々信じていたようだ。
 ところで、『昭和社会経済史料集成』10巻(大東文化大学東洋研究所、昭和60年8月)を見ていたら仲小路が出てきた。海軍大学校研究部の富岡定俊大佐が作成した「総力戦研究所嘱託トシテ推薦名簿」である。「権威者」からは、和辻哲郎本位田祥男、三枝茂智の3名、「少壮有為ノ学者」からは大河内一男高山岩男、仲小路、小島威彦ら8名が選ばれている。そして、仲小路については、「戦争文化研究所ノ頭脳的中心 天才的頭脳ヲ有ス」と説明があった。天才的頭脳ではあったが、トンデモには騙されてしまったようだ。
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