神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

ユリア・ブレニナ「日蓮主義と日本主義ーー田中智学における「日本による世界統一」というビジョンをめぐってーー」を読んで

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 今日は、午後から「「仏教と近代」研究会 合評会「『近代の仏教思想と日本主義』」を拝聴。熱のこもった議論や吉永さんのツッコミもあり、楽しめました。さて、同書(法藏館)については、
『近代の仏教思想と日本主義』(法藏館)の栗田英彦「日本主義の主体性と抗争ーー原理日本社・京都学派・日本神話派ーー」への補足 - 神保町系オタオタ日記」や
『近代の仏教思想と日本主義』(法藏館)中の名和達宣論文を読んでーー仏教関係者の公職追放についてーー - 神保町系オタオタ日記
で話題にしたところである。今回は、ユリア・ブレニナ論文を取り上げてみよう。田中智学の日蓮主義の背後に偽史的要素もあると分かり、非常に面白かった。そのうち日持伝説を話題にしよう*1。日持(1250-?)は、日蓮の6人の高弟の1人で海外布教のため出発したが、消息不明に。しかし、蝦夷地で布教したという説から、ひいては朝鮮、更に中国、シベリアへとその痕跡が「発見」されていったようだ。先行研究の1つとして挙げられている井澗裕「日持上人の樺太布教説をめぐってーー帝国日本における北進論の特質と影響(一)」『境界研究』6号,平成28年はネットに挙がっているので、読んでみた。これまた驚いた。日持伝説は、小谷部全一郎の「義経=成吉思汗説」にも利用されていたのである。井澗論文は小谷部の『成吉思汗は源義経也』(冨山房大正13年11月)と『義経満洲』(厚生閣書店、昭和10年3月)の例を挙げているが、手持ちの『成吉思汗は源義経也:著述の動機と再論』(冨山房大正14年10月)80頁から引用しておこう。

(略)又樺太を経て彼岸の大陸に渡りたるは、古より蝦夷人が往来せる足跡を辿りたるものにて、之は独り義経のみならず、日蓮六高僧の一人、日持上人も、身延より秋田の海岸に至らず、順路を踏んで陸奥に入り、津軽三厩より蝦夷に渡り、更に樺太より対岸の黒龍江を溯航し満蒙の地に入りしことは、遺蹟に徴して昭々たり。

 日持伝説を「義経=成吉思汗説」の傍証に使っているね。あと、小谷部は、『成吉思汗は源義経也』171頁で「余は帰朝後是等の事蹟を日蓮宗碩学某に語り、其の意見を求めた」と書いているが、この「日蓮宗碩学某」が誰なのか気になるところである。

近代の仏教思想と日本主義

近代の仏教思想と日本主義

  • 発売日: 2020/09/28
  • メディア: 単行本

*1:他には、インドの最高貴族の一団が日本に渡り、天皇家になったという説など。