神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

九鬼隆治の皇道宣揚会による皇道図書館計画ーー並木軍平による皇道図書館の前史?ーー

f:id:jyunku:20210315200113j:plain
 並木軍平が群馬県に仮文庫を創立した皇道図書館については、その目録『皇道図書館蔵書目録第1輯』(皇道図書館創立事務所、昭和18年12月。以下「蔵書目録」という)が小林昌樹編・解題で金沢文圃閣から復刻されている。同図書館の名誉顧問は、日本大学皇道学院(昭和12年創立)の院長今泉定助及び同大学総長山岡萬之助である。三浦一郎九鬼文書の研究』(皇道宣揚会編纂部、昭和16年11月)の八幡書店による復刻版の森克明「『九鬼文献』の周辺」をあらためて読んでいたら、驚くべき記述があった。九鬼隆治子爵が総裁となって大正10年2月に創設した皇道宣揚会(戦後は宗教法人高御位神宮)について、

(略)昭和九年八月高御位山々麓に道場を建設するにいたる。計画としては、皇道殿・皇道会館・修養殿・講武殿・皇道学院・皇道図書館を建設する予定であったが、実行されなかったようである。(略)

 皇道学院や皇道図書館が計画されていたようだ。同解説には『皇道宣揚会名誉協賛員芳名録』127名の一部が挙がっているが、今泉や山岡の名前は出てこない。ただ、三浦は京城で「皇学研究所」(のち皇風社)を開いていた昭和10年12月今泉の紹介で、朝鮮軍司令官小磯国昭と知遇を得たというので、皇道宣揚会と今泉は繋がってくる。
 並木自身が皇道宣揚会と関係があったということは、無さそうである。ただし、名誉顧問の今泉や山岡を通して、多少トンデモの要素が並木の皇道図書館に入り込んだかもしれない*1。その蔵書目録を見ると、偽史関係としては、

三種の御神宝の略説と謹解 澤田健 
ウエツフミ(上記)
日国是文字源 高畠康寿
皇道と興亜の規定[ママ] 吉田兼吉
神武天皇の神字研究 吉田兼吉
契丹古伝訳並注釈 田多井四郎治
世紀の預言 藤澤親雄
神代の文字 宮崎小八郎

が挙がっている。更に酒井勝軍小谷部全一郎の本もある。

日本及日本国民の[ママ]起原 小谷部全一郎
成吉思汗は源義経也 小谷部全一郎
猶太人の世界征略運動
猶人[ママ]民族の大陰謀
橄欖山上疑問[の錦旗]
神州天子国

 酒井の本は「部外」扱いで著者名の記載はない。念のため言っておくと、蔵書全体は一般的な国学書で構成され、あくまでトンデモ本は極一部である。並木の皇道図書館日本大学皇道学院出身の並木が今泉や山岡の協力を得て独自に創立したものだが、結果的にはある程度皇道宣揚会が目指した皇道図書館に近いものになったのかもしれない。
参考:「では小林昌樹「戦時期ガラパゴス化の果てに見えた日本図書館界の課題」に補足してみようーーもう一つあった皇道図書館ーー - 神保町系オタオタ日記」、「日本大学総長山岡萬之助が主宰した宗教雑誌『宇宙』(宇宙社)と大東信教協会 - 神保町系オタオタ日記

*1:蔵書目録への今泉の「序」では、今泉は蔵書収集には関与していないようではある。