神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

尚学堂書店で『領解文説教:譬喩因縁』(顕道書院、明治34年)を社章買いーー洋書のプリンターズ・マークに倣った社章の例ーー

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とうとうやってしまいました。社章買いを。義渓述・大久保一枝編『領解文説教:譬喩因縁』(顕道書院、明治34年9月)。尚学堂書店でコロナ騒動前に見つけていたものの持っていたような気もしたので見送ったら、緊急事態宣言が出て買いに行けなくなっていた。宣言が解除されたので、早速買ってきました。本の内容にまったく興味はないので、まさしく裏表紙の社章目当ての買い物である。1,000円。顕道書院は京都の出版社なので均一台で見つける事もできると思うが、いつ新型コロナでコロリと逝くか分からない爺さんなので、買っちゃいました。
裏表紙の社章は、鳳凰(?)を出版地、出版社名等が書かれたスクロール(巻物)が囲むもの。国会デジコレによると、同社の弘中唯見『もとめよや』(明治24年12月)に細部は異なるが類例が既に使われている。この動物をスクロールが囲む明治期の社章の例は、他にも博文館や浜本明昇堂の例がある。どの出版社が嚆矢かという問題も研究すべきだが、昨年12月NPO法人向日庵の公開研究会を聴きに行ったら驚いたことがある。長野裕子「寿岳文章と向日庵本」のレジュメにあったイギリスのエラニー・プレスのプリンターズ・マーク(社章)。
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女性をスクロールが囲んでいる。出典であるコリン・フランクリン著・大竹正次訳『英国の私家版』(アトリエ・ミウラ、昭和58年10月)によると、この図版はエラニー・プレスのプリンターズ・マークで、ルシアン・ピサロによりデザインされ、エスター夫人により木版に彫刻され、明治27年から大正3年までの刊本の扉や奥付けに見られるという。スクロール中の「E.ET.L」は「Ester et Lucien」という意味。日本の例の方が古いので、このエラニー・プレスのプリンターズ・マークに倣ったということはないわけだが、イギリスの出版社には他にもこういうデザインがあって、エラニー・プレスはそれに準じたものなのだろう。この辺りは「オックスフォードで古書修行」をしてきた中島先生に訊いてみたいところである。
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