神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

『大正新脩大蔵経』を予約した人々ーー「黒地蔵文庫」の中里介山もーー

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 岡崎のブックス・ヘリングで入手した冊子『教化問題並に悪思想防止策:文部大臣に建言書の写』(皇道普及会事務所、昭和4年4月)については、「大連にあった皇道普及会の会長大石萬壽ーー昭和4年日本の古典神典を翻訳して猶太民族に配れと文部大臣に提言ーー - 神保町系オタオタ日記」で紹介した。今回紹介する『会員名簿』(大正一切経刊行会、昭和6年)も、ヘリングで小冊子群を一括1,000円で売っていただいた中の1冊である。ありがとうございます。大正13年から昭和9年にかけて刊行された100巻の『大正新脩大蔵経』の予約者名簿(昭和6年4月現在)と思われる。地域別(道府県、朝鮮、台湾、満洲・関東州、支那)、龍谷大学、書店、書店扱、海外に分類されている。
 当然ながら、仏教者や寺院が多数を占める。その他、帝国図書館東洋大学図書館などの大学図書館も見られる。面白いのは、道府県立図書館が静岡県立葵文庫、石川県立図書館と鹿児島県立図書館だけしかないことである*1。仏典のような特殊で大部の書籍は避けられたか。
 仏教者の周辺にいた著名人としては、今武平、姉崎正治*2野依秀市*3岡本一平志賀直哉中里介山、久米民之助*4弥吉光長*5、北昤吉*6富士川游、和辻哲郎柳宗悦、久保虎賀寿*7、中井宗太郎、中山太一、伊藤長兵衛*8、シルヴァン・レヴィなどの名が挙がっている。
 介山は、東京府西多摩郡三田村の「黒地蔵文庫内」となっている。笹本寅『大菩薩峠中里介山』(河出書房、昭和31年9月)の年譜によれば、介山は大正14年高尾山の居を御嶽山麓三田村沢井黒地蔵に移して草庵生活に入り、昭和3年10月に黒地蔵草庵を郷里の羽村に移転している。三田村時代の草庵を「黒地蔵文庫」と呼び、蔵書印も作成していたようで、国文学研究資料館の蔵書印データベースに「蔵書印DB黒地蔵文庫」がある。また、小田光雄近代出版史探索Ⅲ』(論創社、平成20年7月)の「503 大正一切経刊行会『大正新修大蔵経総目録』」で紹介された会員名簿(昭和5年5月現在、入会申込順)は、2024人の会員に続いて追加として介山を筆頭に540名を挙げている。
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