神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

大連にあった皇道普及会の会長大石萬壽ーー昭和4年日本の古典神典を翻訳して猶太民族に配れと文部大臣に提言ーー

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 『教化問題並に悪思想防止策:文部大臣に建言書の写 附仏人「ポールリシヤール」の七つの歌 我国体の真解』(皇道普及会事務所、昭和4年4月)は、岡崎のブックスヘリングから入手。非売品、18頁。発行所は大連市聖徳街4丁目に所在、編輯兼発行人は同住所の大石萬壽。大陸の発行本だと古書価が高かったりするが、安く譲っていただいた。ありがとうございます。,
 皇道普及会は、『全国教化団体名鑑』(中央教化団体聯合会、昭和4年8月)に立項されていた。大正13年8月23日創設で、会長は大石、名誉会長は松岡右洋[ママ]、副会長は吉田親数と小野実雄。吉田は『満洲紳士縉商録』(日清興信所、昭和2年4月)によると、極東週報社長、株式会社共立組社長。小野は、『満蒙日本人紳士録』(満洲日報社、昭和4年5月)によると、弁護士、満洲法政学院講師、法律新聞支社長である。国会デジコレから、皇道普及会の目的及び事業(一部)を挙げておく。
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 肝心の大石の経歴がよく分からない。『植木枝盛日記』(高知新聞社、昭和30年7月)明治24年2月4日の条には、負傷の見舞を受けた一人として「山口 大石万寿」とある。また、『党報』114号(自由党党報局、明治29年8月)に「朝鮮国東海岸雄基港開発意見」が載っていて、自由民権運動の活動家だったと思われる。後者には、かつて一商売(人)として朝鮮八道を踏破し、進んで満洲北部やシベリアの沿海州を跋渉したとある。皓星社の日本人物情報大系人物検索フォーム「検索フォーム」ではヒットせず。同データベースは朝鮮編が今のところ含まれていないのが残念だが、おそらく大石が朝鮮にいた頃はまだ紳士録等に載るような地位になかっただろう。なお、「グーグルブックス」により、赤坂区の大石が発行した『渡韓同志会』が明治27年7月16日に発禁になったことが分かる。生没年不詳と書くと、木村悠之介氏があっという間に調べてしまうかもしれない。
 皇道普及会が文部大臣に建言した内容は、次のとおりである。 
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 特に注目すべきは、3番目の古典神典を訳して、猶太(ユダヤ)民族に頒布することというものである。これは、世界赤化の背景には猶太民族の陰謀があり、それはノアの箱船神話に由来する神の選民だとの信念による世界統一の欲望に基づくものである。それに対抗できるのは、「全世界を通じて、我惟神の大道たる、唯一の皇道の存在するのみ」で、宇宙万有の真理たる我が古典を訳して猶太民族に配り、反省を促せというものだ。古事記等のエッセンスを英訳等して配ってどうすんのと思うが、皇道主義者の面目躍如とは言える。
追記:本書には蔵書印「梧陰文庫」が押されていて、国文学研究資料館蔵書印DB梧陰文庫」によると、浜口恵璋の蔵書印である。
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