神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

福来友吉と真言宗の関係について研究を期待するーー知恩寺の古本まつりで見つけた『六大新報』ーー

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 今日は本来なら下鴨納涼古本まつりの初日。中止になってしまったが、秋の百万遍知恩寺の古本まつりに期待したい。さて、何年か前に知恩寺の古本まつりでキクオ書店の和本均一コーナーに、和本ではないが『六大新報』(六大新報社)が出ていた。数部あったが、福来友吉「共同生活の理想」掲載の863号,大正9年5月を購入。同誌はホームページ「六大新報社」によれば、明治23年1月『伝灯』(真言宗伝灯会の機関誌)として創刊され、明治36年『六大新報』に改題された。初代主筆は和田大圓で、本号当時の主筆は宮崎忍海。現存する中では、「日本最古の宗教新聞」らしい。ただし、図書館の扱いでは雑誌に分類されている。DVDによる復刻版も出ているものの研究する人はいないのか、CiNii Articlesでは阿部宏貴(貴子)氏の「近代日本の仏教教団における『教学』:その用例と『教師』(教学を再考する(2))」『現代密教』(26)ほか1件がヒットするだけで、大谷栄一『近代仏教というメディア:出版と社会活動』(ぺりかん社、令和2年3月)には言及なし。
 「国会図書館サーチ」によると、福来は『六大新報』には既に685号,大正5年11月へ「最近の思潮」を執筆している。これが、最初だろうか。今回入手した「共同生活の理想」には、
・去る9日大阪了徳院における婦人会での講話の概要であること
・この頃真言宗の教義に立脚した見地から共同生活の理想を宣伝していること
・2月神戸市において新井石禅老師と講演をしたこと
・先般伊予の今治女学校で講演したこと
などが書かれている。この頃各地で講演をしていたことが分かる。福来と真言宗については、「唯書房出品の『密教講演集』第一輯(密教青年会・新密教社、大正9年1月) - 神保町系オタオタ日記」や「福来友吉と四国巡礼をした元自由キリスト教会の岩橋三渓 - 神保町系オタオタ日記」で言及したことがある。千里眼事件ばかり注目される福来だが、他の事績についても研究の進展が期待されるところである。やってくれそうなのは、一柳廣孝先生かな。
 あと、櫻井智賢(東京時事新報記者)「矢野長蔵氏を悼む」も掲載されている。清瀧智龍*1から来報があり、矢野済世病院主が逝き葬儀も済んだが、追悼詩歌なりとも寄せてくれとのことだったという。矢野と面識はないが、「済世病院の今日あるは、清瀧君の献身的の奮闘熱誠、十余年一日の労苦、並に院の生命たる小林院長の如き稀有の方のありしに依るは勿論ながら、其の小林院長なり清瀧君をして、斯く迄此の一大布施業に身命を捧げしめたる無上の援助者、外護者は実に矢野翁その人に外ならず」としている。また、矢野は西本願寺門徒で53歳だったとある。「小林院長」は、「京阪書房で小林参三郎『生命の神秘』を買ったら『京都新聞』に「静坐社」の記事が - 神保町系オタオタ日記」などで紹介した小林参三郎ですね。矢野は「院主」とされているが、同誌315号,明治42年9月「済世病院開院記念号」の芙峰山人「矢野長蔵氏」に、明治元年6月生まれで「済世病院の会計長にして、事実に於ける院主たる」とある。
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*1:昭和13年版『仏教年鑑』の「現代仏教家人名録」によると、号芙峰。明治3年生、六大新報社を創設経営し、済世病院を設立とある。