神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

『少女』の夏期特別妖怪号(時事新報社、大正3年)

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 3月にあった某先生の蔵書処分については、「岡本橘仙や金子竹次郎らの読書会記録『列子天瑞篇之研究』ーー黒田天外の旧蔵書かも?ーー - 神保町系オタオタ日記」で言及したところである。残りの宝の山は、下鴨神社の納涼古本まつりで出会えるかと思っていたが、まつりが中止になってしまったのでどうなったことやら。さて、蔵書群の中に戦前の雑誌が入ったケースが幾つかあって、『少女』19号(時事新報社大正3年7月)もそこにあった。表紙をよく見ると、少女が手に持つ本の表紙に「夏期特別妖怪号」とある。目次を見ると、
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 目次には「妖怪号」という文字はないが、記事のラインナップは怪しいものばかりで本誌自体が「妖怪号」であった。ただ、実際は「妖怪」というよりも、幽霊や怪現象中心の内容である。水木しげる式の妖怪はほとんど出てこない。49頁の余白の穴埋めに出て来たと思ったら、「昔は小川の中に『小豆洗ひ』と云ふお化けがゐて、人が通りかゝるとザク/\ザク/\と云ふやうな音をさせたと云ひますが、今はそんな話はありません」と身も蓋もないことが書いてある。
 そもそも「編輯だより」を見ると、

▲科学に重きを置く『少女』が、不似合な夏期特別号として妖怪号を出したので、『少女』は妖怪を鼓吹するのかしらなどと誤解を受けては困ります。私共は世の中に科学で説明の出来ない不思議はないといふ事を信じて居ります。唯だその不思議を開閘するまでに人智が進んで居なかつた昔はかういふ事を不思議に思つて居た。こんな事が妖怪の仕業と疑はれたのだといふ事を証拠だて、「世の中に妖怪などはあるものでない」といふ事を皆様に悟らせやうといふのが本誌の眼目だつたのです。

というスタンスであった。なるほど、「動物の変化」を書いた丘浅次郎も「世の中に、妖怪とか化物とか云ふものが、有るか無いかは知りませんが、私自身は未だ一度も出逢ふたことが有りませぬ故、どうも有るものとは考へられません」と書いている。ブロッケン現象セントエルモの火も科学的に説明している。
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 全体的にもう少し怖がらせたり、夢のある特集にしてほしかったものである。日本近代文学館が所蔵。個人では、東雅夫氏が持ってそうだ。ちなみに、『少年』の方は「飛行号」であった。
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