三輪是法『近現代日本における日蓮信仰』(法蔵館、令和6年2月)は、主として日記、手紙、著書、講演録等から近現代における日蓮仏教の信仰者における心理的動向を扱ったものである。扱われた信仰者としては、長松日扇(本門佛立宗の開祖)、田中智学、高山樗牛、姉崎正治、石原莞爾、牧口常三郎、戸田城聖、北一輝、妹尾義郎などよく知られた人が多い。そのほか、「あとがき」によると、日蓮宗の季刊誌『正法』の連載で、宮澤賢治、小笠原長生、小島愛之助、山本峯吉(桃中軒雲右衛門)、穐吉定次(双葉山)について資料調査を行っているという。
そこで、私が日記読みの中で見つけた人をあげておこう。東京海上保険大阪・神戸両支店長で後に甲南学園第2代理事長(大正15年~昭和20年)となる平生釟三郎である。『平生釟三郎日記』*1補巻(甲南学園、令和2年12月)の巻別人名索引で「日蓮」をみると、全18巻ほぼすべての巻の日記に「日蓮」が登場することがわかる。そのうち、第2巻(平成22年12月)から引用してみよう。次郎(次男)の3回忌に際して会食中に主僧が日蓮宗だったため、たまたま話が日蓮上人に及び、平生は次のように語ったという。
(大正五年)
十二月二十四日 日曜日 快晴
(略)日本人ハ有色人種ノ代表者、統率者、指導者トシテ他日白晳人種ヲ屈服セシメテ世界ノ覇者タルノ天命ヲ有スベキモノナルコトヲ確信シ、其信念ヲ以テ同胞相掖シテ世界ニ雄飛センコトヲ覚悟セザルベカラズ。而シテ日蓮上人ハ七百余年前ニ於テ日本ニ根拠ヲ置キ、日本帝室統治ノ下ニ法華経ヲ以テ世界ヲ統一シ、一天四海、皆帰妙法ノ理想ヲ実顕セント力行奮闘シタル人ナレバ、其説クトコロ其告グルトコロハ総テ現時ノ日本人ガ服贋シテ之ヲ実行セザルベカラザルモノナリ。故ニ余ハ、智識階級ニ属スル人々ガ現今大ニ日蓮主義ノ研究ニ意ヲ用ユルニ至リタルコトハ慶スベキ現象ナラズヤト。(略)
平生が日蓮を研究するに至った切っ掛けは、大正5年12月31日の条によると、崇拝する加藤清正が日蓮宗の信者だったためだという。一部の巻しか読んでいないが、索引を利用して日蓮が登場する分だけ読んでも、平生の日蓮信仰の変遷を辿れるかもしれない。
参考:「三輪是法『近現代日本における日蓮信仰』(法藏館)に北一輝・北昤吉兄弟に催眠術を教えた永福寅造登場 - 神保町系オタオタ日記」
*1:『平生釟三郎日記』に柳田國男らしき人物が出てくることは、「柳田國男が貴族院書記官長を辞めた本当の理由? - 神保町系オタオタ日記」参照