開店時間が遅れがちの京阪書房で、小林参三郎『生命の神秘 生きる力と医術の合致』(杜翁全集刊行会、大正11年8月7版)を8百円で。小林参三郎については、吉永師匠の「小林参三郎と真言宗の近代化」などで見て名前を覚えていたのであった。よく売れたようで、奥付によると、
大正11年5月28日発行
同年6月3日再版
同月8日3版
同月15日4版
同月20日5版
同年8月20日6版
同月28日7版
杜翁全集刊行会は春秋社内に所在。春秋社編輯同人「巻首に」によると、「もと本書は足利浄円師の経営さるゝ同朋社から出版される予定になつてゐたが、一人でも多くの読者を得たいと云ふ足利氏のお計らひで、春秋社がその出版の委託を受けた」とのこと。こんなに売れたなら均一台で拾えたかもと思ったら、「日本の古本屋」では、春秋社版で4千円、静坐社版で1万円するから意外と残っていないのか。
本書の290頁に、
天保年間に京都に桜寧主人と称し養性訣といふ書を著はした人がありました。医師ですが余程の達人とみえてその書に記するところ実に名論卓説で、私共のいふ丹田を練ることを勧めてゐます。
とある。京都にそんな人がいましたか。
小林は、東寺内にあった真言宗の慈善病院である済世病院の院長。岡田式静坐法を治療に応用、小林の死後に妻が創立したのが静坐社である。で、この本をいつかネタにしようと思っていたら、昨日と今日の京都新聞に「静坐社のたそがれ」という記事が2回にわたり掲載された。吉永師匠が吉田山西麓に「静坐社」の表札を発見、後継者に接触し、多くの貴重な資料を確認。膨大な資料の整理・分析は一人で難しいと思案していると、小林を調べていた栗田英彦先生から接触があり、早速静坐社に同行。度々訪問した結果、資料は国際日本文化研究センターに寄贈されることになったという。小林家では宗教系の大学への受け入れがかなわなければ廃棄もやむを得ないと考えていた時期もあったらしいから、吉永師匠が表札を見つけなかったり、栗田先生との出合いがなければ、「宝の山」は消滅していたかもしれない。
静坐社に関してより詳しくは、ネットでも読める栗田先生の「国際日本文化研究センター所蔵静坐社資料:解説と目録」『日本研究』47を参照されたい。びっくらちょの人脈が一杯出てくる。なお、栗田先生は3月に「岡田虎二郎の思想と実践ーー越境する歴史のなかで」により第12回涙骨賞最優秀賞を受賞されている。おめでとうございます。
追記:『生命の神秘』(発行静坐社・発売同朋社出版部、昭和9年5月改版第2版)の小林信子「本書刊行について」によると、春秋社版は「十七八版をかさねました」という。