神保町系オタオタ日記

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二人の「問題の女」、本荘幽蘭と下山京子に関する本ーー平山亜佐子『問題の女:本荘幽蘭伝』(平凡社)と松尾理也『大阪時事新報の研究』(創元社)ーー

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 松尾理也『大阪時事新報の研究:「関西ジャーナリズム」と福澤精神』(創元社、令和3年7月)が、刊行された。同書第2章「夕刊発行と時間軸の拡大ーー化け込み記者・下山京子」は、初期の婦人記者で明治39年大阪時事新報社に入社し、身分を隠した潜入ルポで評判になった下山に注目している。下山と言えば、亡くなって10年を超える黒岩比佐子さんが晩年調査していた婦人記者である。調査の切っ掛けは、「古書の森日記 by Hisako:『婦人世界』(明治43年12月号) - livedoor Blog(ブログ)」へ寄せられた下山の曾孫という人からのコメントだったと思う。松尾著は大正5年頃を境に下山の消息は途絶えたとしているが、黒岩さんはその後の消息を解明していたかもしれない。
 松尾著によると、大正4年の『大阪時事新報』は、女優として大阪に戻ってきた下山について、「問題の女」と書いているという。実は、婦人記者でより「問題の女」だった人物がいて、近くその伝記が刊行される。平山亜佐子『問題の女:本荘幽蘭伝』(平凡社、令和3年10月)である。幽蘭女史については、拙ブログも次のような記事を書いたことがある。

教育講談師本荘幽蘭と妹尾義郎 - 神保町系オタオタ日記
肉食系女子本荘幽蘭に食われた堀岡良吉 - 神保町系オタオタ日記
本荘幽蘭と白百合カフェー - 神保町系オタオタ日記
安藤礼二から見た本荘幽蘭 - 神保町系オタオタ日記
出久根達郎が出席した手書き古書目録に関する座談会 - 神保町系オタオタ日記

 肉食系女子として、「120人以上の交際相手」(平山著の帯)を食べちゃったらしい幽蘭。江刺昭子『女のくせに:草分けの女性新聞記者たち』(インパクト出版会、平成9年1月)は、戦後の消息について『講談研究』昭和28年9月号への投稿を記載するだけである。平山著は従来不明だった戦後の消息についても解明されているようなので、大いに期待している。平山氏が純粋個人雑誌『趣味と實益』の「ゆらゆら幽蘭記」で幽蘭を追いかけ始めてから10年になるだろうか。今年の推しの1冊になるのは必至だろう。安藤礼二さんの書評もさることながら、黒岩さんの書評が読みたかった本である。