黒岩比佐子『伝書鳩 もうひとつのIT』(文春新書)は、2000年12月刊行。同月27日付毎日新聞が早速「ひと」欄で、「「伝書鳩 もうひとつのIT」を出版した黒岩比佐子さん」を掲載している。そこには、例えば、
・防衛庁の人に「こんなことを聞きにきた人は初めて」と不思議がられた
・夫は会社員
・「インターネットのように実体のないものがあふれる今だからこそ、血の通った生身の鳥による通信の歴史が知りたくなった」。連日、昼食もとらず図書館にこもったが、文献は驚くほど限られていた。
・「ハト通信なんていう究極の“ローテク”にこだわるのは時代遅れの人間だからなのかもしれない。でも、周辺からこぼれてしまいそうな小さなものへの視線を忘れずに書いていきたい」
とある。この『伝書鳩』は、伝書鳩に関する話題が網羅的に盛り込まれているが、新書という制約があった。最近出た吉田和明『戦争と伝書鳩1870−1945』(社会評論社、2011年8月)は、軍用鳩に関しては決定版と言ってもよいだろう。ただし、次のような不思議な記述がある。
いや、そもそも、黒岩さんは岩田(巌)さんや武知(彦栄)さんの一節をどう解釈して、ここに、「日露戦争は始まると、ロシアのバルチック艦隊の回航によって台湾が孤立する恐れがあったため、非常時に備えて鳩を台湾へ送って配置している」と記したのだろうか。その台湾に配置された鳩は、「バルチック艦隊の回航によって台湾が孤立」したときに、どのように使われるはずのものだったのか。筆者がさんざん悩み、考えてきたことについて、黒岩さんはどう決着をつけたのだろうか。聞いてみたい気もするが、その問題はさておくことにしよう。
「聞いてみたい気もする」というのは、黒岩さんが亡くなっていることを知らないのであろうか。
なお、「あとがき」によれば、吉田氏は、本書の後、『神秘主義者宮沢賢治が待望したファシズム』などを書き上げる予定という。
また、吉田氏は、「はじめに」でNHK教育「地球ドラマチック」の「戦場の伝書鳩 知られざる情報戦」を見ていないと書いているが、この番組の放送があることを黒岩さんに教えて喜ばれたことがあった。「古書の森日記」2006年6月30日だが、
1. Posted by 神保町のオタ 2006年07月01日 07:15
7月5日(水)午後7・00〜7・45に教育テレビの「地球ドラマチック」で、「伝書鳩の活躍〜第二次世界大戦の情報バトル〜」(仮)があるみたいです(参考、http://www.nhk.or.jp/dramatic/)。
2. Posted by Hisako 2006年07月01日 11:09
オタさま、いつも貴重な情報をありがとうございます。それはぜひ見なくては……。以前もNHKで、鳩レースの方の伝書鳩のドキュメンタリーを放送したことがあったのですが、誰か鳩好きでもいるのでしょうか? こちらには、全然コンタクトはないのですが。
放送のあった同日記7月5日では、
1. Posted by 神保町のオタ 2006年07月05日 20:52
テレビ見ますた。
黒岩さんの監修で大東亜戦争版を作って!?
2. Posted by Hisako 2006年07月05日 21:14
オタさまのおかげで見逃さずにすみました。軍用鳩は軍の機密事項に関わるので、あまり実態がわからなかったのですが、最近になって新たな事実が公開された、と言っていましたね。初耳の話もいろいろあって、面白かったです。
それにしても、ナレーターは鳩が「人間のために命を捧げた」などと言っていましたが、鳩の方では「命を捧げよう」などとは全然思ってもいなかったわけですし、勲章をもらったところで鳩には意味がないし、人間って本当に勝手な生き物ですね。
3. Posted by 神保町のオタ 2006年07月06日 06:26
サイト上のバックナンバー欄(http://www.nhk.or.jp/dramatic/backnumber/60.html)で見られるようです。
4. Posted by Hisako 2006年07月06日 07:56
バックナンバー欄、たしかにありました。ご教示ありがとうございました。
“大東亜戦争版”は、証言できる人たちがかなりのご高齢なので、もしつくるとしたら、早くしないといけませんね……。
『伝書鳩』はあまり売れなかったようだが、このブログの「2006年4月6日」へのコメントには、
Hisako 2006/04/06 08:11
『伝書鳩』の著者です。昨日の相馬黒光のエピソードにも驚きましたが、反ユダヤ主義者と伝書鳩がつながっていたとは! 連日のように目が釘付けになりました。伝書鳩については、知られざる事実がまだたくさん眠っているようですね。続篇が書けるかも……(売れないとは思いますが)。
と書いておられる。小さなものへの視線を大切にした黒岩さんが、伝書鳩のように帰ってきてくれないものかしら。