神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

宮本百合子とチャーチワードの女助手フローレンス・ウェルス

宮本百合子の日記にはこんな一節があったりする。

大正11年3月23日 夕方、星の六階でコロンビア会。種々な人に会ふ。ベルリナに久しぶりで会ひうれしく思った。
石原さんが見える。日本人の女では二人きり。


おそらく星製薬でコロンビア大学の同窓会が開催されたということだろう。星一明治34年同大学政治経済科卒)が当然出席していたとして、コロンビア大学出身のフローレンス・ウェルス女史は出席していただろうか。実はウェルスは、アメリカ時代の百合子(大正8年1月から同大学聴講生)に出会っている。百合子の自伝的小説『伸子』の創作メモ(一)(大正13年執筆)には、最初の夫である古代東洋語研究者荒木茂をA−佃一郎とし、自分−伸子としているほか、吉田−名取、星野−山内、ウェルス−ロビンソンというふうに、実在の人物名と登場人物名との対応を記している。吉田は吉田信子、星野は星野あい、ウェルスはフローレンス・ウェルスだね(1月20日参照)。また、このメモにはストーリーの構成として、「名取、山内、ロビンソン等、あのinternational dayの忘れられぬ日曜」とある。ウェルスらは百合子と荒木のアメリカにおける輝く日々を間近で見ていたのだね。なお、実際に書かれた『伸子』にはウェルスらは登場していない。


百合子は、再来日したウェルスとの再会も果たしている。

大正10年11月13日 Aが、青山から帰って来ると直ぐ、コロンビアクラブに行くことになり、いそいで身なりを整え出かける。
         吉田さん、ウェルス、外三内氏夫人等に会い愉快だった。


    12月31日 朝早めに起き、二人で三越に行き正月の菓子や吉田さんの処へ持って行くものを買う。かえってすっかり掃除をし、七時頃から青山に行く。矢野、二平氏が来て居、おそくなってから飯島氏夫妻来、田村さん、福岡さん、ミスウェルス、吉田さんなどとにぎやかに三時近くまで遊ぶ。四人の他に女中が二人居、皆二人ずつ食事も何も別にして居るのだそうだ。寂しいだろうと思わずには居られない。丁度二回目のカードをして居ると、静に鐘の音をきいた。


  12年12月31日 今年は、始めて自分等の家で、楽しい気持で越年をした。去年は二人とも落付かず、一昨年はMiss Wellsのところ、その前の年は林町。
         Miss Wellsが猪なべをすると云って迎えに来てくれたがことわる。