神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

田端の天然自笑軒に集う文人

黒岩比佐子『古書の森 逍遙』書籍コード144は自笑軒主人『秘密辞典』(千代田出版部、大正9年6月初版)。黒岩さんは、明治41年に田端で開店した会席料理店「天然自笑軒」の主人宮崎直次郎が『秘密辞典』の著者ということなのだろうか、としている。これを肯定する材料も、否定する材料も持っていないが、天然自笑軒について少し判明したので報告。宮崎の孫である小林素次氏の「「天然自笑軒」−宮崎直次郎−」(『大衆に愛された作家・趣味人たち』東京都北区立中央図書館)によると、天然自笑軒は明治44年9月10日開業。引札の文章は森鴎外が執筆*1宮本百合子*2佐多稲子、吉田絃二郎、室生犀星内田百輭*3久保田万太郎小島政二郎らの著述にも出てくるという。ここにあがっているほか、斎藤茂吉の日記にも見つけた。

大正14年12月13日 夜、田端ノ自笑軒ニテ下田君ヨリ馳走ニナリ酒大ニ飲ム。ソノ前ニ矢来倶楽部ノ古本ノ市ニ行キテ廿円買フ。

また、大正15年5月29日付東京朝日新聞「メトミミ」は、26日の晩田端の自笑軒で詩人ヴィルドラック夫妻を囲む会が開催され、吉江、堀口、豊島、内藤、辰野、岸田、井汲、山田らが出席したと書いている。小林氏によると、祖父直次郎の大正14年1月9日没後、長男平太郎が継ぎ、更に息子平一(小林氏の兄)が当主となったが、空襲で焼失したという。

*1:「天然自笑軒引札」『鴎外全集第三十八巻』。「後記」には、「執筆年時、出所等不明」とある。

*2:「田端の汽車そのほか」『婦人』昭和22年7月号。

*3:「河童忌」、初出誌不詳。『無絃琴』(中央公論社昭和9年10月)所収。