神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

長谷川伸旧蔵の雑誌『ワンパク』の広告から未知の杉浦非水装幀本を発見


 古書鎌田から古書目録10号が発行された。長谷川伸(本名長谷川伸二郎)旧蔵品が多く、段ボール箱1箱分の写真ネガ・印画紙・その他旧蔵品のほか、旧蔵書が160冊以上出ていた。その中で雑誌に注目した。『四天王』6冊(四天王発行所、大正4年)は、長谷川が山野芋作名義で寄稿するほか平山蘆江も寄稿していて、花柳界関係広告多数ということで面白そうだが、値段もいいので見送り。同じく芋作名義で寄稿した『ワンパク』8号(ワンパク発行所、大正5年3月)を購入、4,400円。

 目次を挙げておく。芋作の「一張の弓」は貞享3(1686)年の京都を舞台とする時代小説である。『長谷川伸全集第16巻」(朝日新聞社、昭和47年6月)の年譜(伊東昌輝作製)によれば、明治44年12月に都新聞へ入社、最初に口をきいてくれたのは平山蘆江中里介山だったという。大正3年3月から都新聞に山野芋作名義で連載した「横浜音頭」は、翌4年に単行本として出版。しかし、長谷川はこの作品を長谷川伸以前の作品として抹殺作品の中に入れ、大正13年3月の『夜もすがら検校』(春陽堂)を処女出版とすることにしていたとある。年譜には、大正4年及び5年の条はない。『四天王』や『ワンパク』*1に山野芋作名義で書いた作品も抹殺作品扱いなのだろう。
 ところで、『ワンパク』の広告に驚いた。杉浦非水装幀本として落合浪雄『其日がへり:郊外探勝』(有文堂書店)、落合『大正五年版七日の旅:漫遊案内』(同社)、室井きさ子『嫁ぐ娘へ』(同社)が載っている。有文堂書店は、ワンパク発行所の発行者である下田兵太郎が経営する別会社である。このうち、『嫁ぐ娘へ』の広告を挙げておく。本も入手できたので冒頭に写真を挙げておいた。表紙絵は百合で、この時期に非水が百合を使った装幀本としては、菊池幽芳『百合子』上・中・下 (金尾文淵堂、大正2年9月~12月)が知られている。 

 かわじもとたかさんの労作『装丁家で探す本:古書目録に見た装丁家たち』(杉並けやき出版、平成19年6月)と『続装丁家で探す本:追補・訂正版』(同社、平成30年6月)を見ると、杉浦非水装幀本が前者に113冊、後者に155冊掲載されている。広告のあった有文堂書店版としては、落合『大正期漫遊案内七日の旅』(大正4年2月)が挙がっている。「日本の古本屋」にはこれら3冊が売り切れの分も含めて杉浦非水装幀本であることに全く触れられていない。かわじさんは、『続装丁家で探す本』に、恩地孝四郎に対して杉浦の装丁集はまだ1冊にまとめて出ておらず、どなたか挑戦してほしいと書いている。多分杉浦装幀本を熱心に集めているコレクターは多いと思う。是非、『増補版佐野繁次郎装幀集成:西村コレクションを中心として』(みずのわ出版、令和6年6月)のような集成を出してほしいものである。有文堂書店の非水装幀本としては、『生誕140年杉浦非水:開花するモダンデザイン』(「杉浦非水展」実行委員会、平成29年2月)に載る髙峰博『夢学』(大正6年6月)も存在する。同書店刊行本にはまだまだ非水装幀本が埋もれているかもしれない。
参考:「今日はお芝居、明日は三越ーー「今日は帝劇、明日は三越」に至る道ーー - 神保町系オタオタ日記」に挙げた三越の広告も非水のデザインかもしれない。

*1:追記:『ワンパク』8号の梅本歌津雄「水轉話し」に「四天王がワンパクと改つたんですッて」とあり、『ワンパク』は『四天王』の後継誌だったようだ。