京都産業大学ギャラリーで特別展「東アジア恠異学会20周年記念展示:吉兆と魔除けーー怪異学の視点からーー」が4月14日まで開催中。目玉は、「クタへ図」、井道景賛「白沢之図」、「異形賀茂祭絵巻」あたりだろうか。地味な蘇民将来のお守り(八坂神社・祇園神社)も出ていた。
それで寸葉さんから入手した昭和29年3月16日消印の稲井豊から九十九黄人宛『蘇*1民将来符』(水曜荘限定版刊行会)の案内葉書を思い出した。稲井の住所は、北海道網走市である。「グーグルブックス」で検索すると、斎藤昌三『紙魚地獄』(書物往来社、昭和34年9月)がヒットし、稲井に『変態護符雑記』という著書もあったことが分かる。『蘇民将来符』は100部限定で図書館に案内葉書を送らなかったのか、国会図書館サーチではヒットしない。「日本の古本屋」で、舒文堂河島書店が出品していたが売り切れだ。上田市立信濃国分寺資料館が出していた『蘇民将来符:その信仰と伝承』の初版~第3版もすべて売り切れになっているので、蘇民将来符の本は人気があるのかな。
シンクロニシティか、八幡書店による三浦一郎『九鬼文書の研究』(皇道宣揚会編纂部、昭和16年11月)の復刻版にも出てきた。「ついで書き」の「第二巻は「九鬼家と蘇民将来」といふ題で原稿はすでに完成してゐるから近く発行する」である。これが出ていれば、戦前の本でタイトルに「蘇民将来」を含む数少ない著書の一つとなるところであった。しかし、復刻版の森克明「『九鬼文献』の周辺」によれば、第2巻は刊行されず、戦後「大本節分大祭と国祖御大難の御因縁」(『おほもと』昭和35年2月号)という論文(三村光郎名義)にいかされたという。同論文も、復刻版に収録されているので、一部を引用しておこう。
明治以後の蘇民将来の研究家として文献を残している人は元仙台第二高等学校長阿刀田令造氏、元京都市の中学校教諭だった、井上頼数[ママ]氏、作家の坂口安吾氏、その他各地の蘇民社に多少づつの散逸した伝説が残っていますが、大同小異殆んど取るに足らないものばかりといいたいぐらい。
筆者は今から約二十年ばかり前、まだ大本入信前に全国の蘇民将来を祭った神社やお寺や、個人の家を全国数十カ所にわたって莫大な私費を投じて数年間調査したことがあります。(略)さすがの二高の阿刀田校長も私の蘇民研究の熱心さにあきれ返り、多年にわたってみずから蒐集した資料を譲ってくれたほどでした。
阿刀田は、阿刀田高氏の伯父である。蒐集家として知られ、『昭和前期蒐集家リスト:趣味人・在野研究者・学者4500人』(トム・リバーフィールド、平成31年11月)にも、蒐集分野が「天明天保年間の宮城県飢饉」として出てくる*2。「蘇民将来」『東北文化研究』1巻4・5号,昭和3年を執筆している。阿刀田が集めた蘇民将来関係資料は、三浦に渡ったようだ。三浦のコレクションは、どうなっただろうか。
追記:阿刀田も「在野」というのは、不正確ですね。