神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

戦前から吉田初三郎式鳥瞰図を蒐集していたコレクター群像ーー『旅の友』昭和4年5月号に「蒐集趣味座談会」ーー

f:id:jyunku:20220315182335j:plain
 一昨年国際日本文化研究センターが公開した「吉田初三郎式鳥瞰図データベース」は、人気があるようだ。私は吉田初三郎の鳥瞰図は戦後に注目されて蒐集する人が増えたと思っていた。しかし、「「趣味の旅行」が盛んになった昭和初期における東海道自動車旅行ーー近江商人藤井彦四郎の妻藤井屋壽子の饅頭本から見るーー - 神保町系オタオタ日記」で紹介した『旅の友』3年5号(中部旅行会、昭和4年5月)の「蒐集趣味座談会」を見てたら、そうではなかった。この座談会は、鉄道省、地方鉄道会社、旅館等が旅客誘引策として発行したパンフレット、ポスター等の蒐集家4人と司会によるものである。その4人とは、加藤武一、松原亀三、小林鐐、高橋周蔵。皆さん吉田の鳥瞰図に注目していたようだ。発言の幾つかを挙げておこう。

加藤 箱根へ旅行した時、そこで吉田初三郎氏の鳥瞰図を手に入れた事が病み付きだと思つてゐます。
小林 (略)殊に、初三郎氏のものなどは、色彩が濃厚で図としての印象が強烈でいゝ。
高橋 現在私の感心してゐるのは近江鉄道沿線案内図です、たしかに他の案内図の郡(ママ)を抜いてゐると思ひます。(松原、小林、司会(加藤りいち)賛成)
加藤 初三郎氏のものは全部で三百ばかり出てゐますが、その内で私の持つてゐるのは二百五十位です。

 4人の蒐集家を『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』(トム・リバーフィールド)を見てみたが、載っていなかった。しかし、蒐集分野欄を見ると、「吉田初三郎、金子常光作鳥瞰図、全国名物票、旅館ラベル、新古旅に関するものなんでも」を挙げた朝岡比佐吉ほか加藤彦吉、長野要作、西貝源吉郎、山本不二男など旅行に関するものの蒐集家が数名いた。趣味としての旅行が普及するにつれて、鳥瞰図など旅行に関するグッズを集めるコレクターも増えたのだろう。
 座談会の中で、交換したり情報収集したりする相手となる地方の蒐集家を知る方法として、

小林 それは京都に洛陽会と云ふのがあつて、そこで福田光月と云ふ人が蒐集家名簿と云ふものをつくつてゐるからわかります。

という発言があった。前記『昭和前期蒐書家リスト』の出典の一つに『蒐集家名簿』(蒐集時代社、昭和17年)があるが、『蒐集家名簿』(洛陽会)というのも存在するのか。
f:id:jyunku:20220315182411j:plain