前田惇の登場した、『お札博士の観た東海道』(大正5年3月)には小谷部全一郎も顔を出す。大正4年11月2日から22日までのこの東海道行脚で、旅立ってすぐに、大井町の小谷部邸へ寄っている。明治43年以来だという松村介石とともに小谷部邸前で3人が並ぶ写真も掲載されている。
スタール博士と小谷部とは、アイヌ研究を通じて知り合ったと思われ、NDL-OPACによると、『アイヌ謎集』(フレデリック・スタール著、小谷部全一郎編。明治44年12月)という著作もあるようだ。
また、小谷部の『成吉思汗は源義經也 著述の動機と再論』(大正14年10月)には、
余が専門とする宗教と哲学とを日本の古神道に適用して、斯界を新たにするに如かずと決意し、東京皇典講究所の講師となりしを期として、一切アイヌ問題を口にせざることを心に定め、多年に亘り余が発掘せる石器土器の全部を前代議士田村新吉氏に譲り、日本唯一ともいも[ママ]べきコロボックルの頭骨、其の他古代民族の頭骨等は、東北帝国大学教授長谷部博士に、アイヌ器具、衣類其の他の参考品全部は、シカゴ大学教授スタール博士に譲与し、蒐集に於て日本随一と称せられたるアイヌに関する図書一切は、余の家に出入する品川町加藤古書肆に殆んど捨値同様にて売却せる也。
(続く)