神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

井上円了『妖怪学』(妖怪学刊行会)の広告を載せた川口海三の『民衆新報』

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昨年4月四天王寺の大古本祭りで『民衆新報』29号(民衆新報社、昭和6年8月)を発見。シルヴァン書房出品。発行所は東京市京橋区槇町2丁目の民衆新報社で、発行人は川口海三。。シルヴァン書房ではよくあることだが、値段が書かれていない。店主に訊くと、「ほんまは1,000円だけど、300円でいいよ」という。ホクホクと購入。そう言えば、この店主は多分カラサキ・アユミさんの『古本乙女の日々是口実』(皓星社)81頁に出てくる古書店主である。美人にだけおまけするのではなく、おっさんでもまけてくれた。
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内容は、1面が川口三洋の社説「心霊論」で、その他「霊感界の大家/戸塚貞子女史と語る」や「霊感に現れたる/安田善次郎翁の夢枕」など。2面から8面までが、井上円了『妖怪学』(妖怪学刊行会)の広告で圧巻であった。2面には、川口海三の民衆警察相談所の広告も載っていて、探偵や身元調査を行っていたことがわかる。川口の肩書きは、「所長/前警視庁警部」である。元警察官が探偵業を営むのはよくある話だが、心霊新聞(心霊は本号だけの可能性もあるが)も出していたとは驚き。
川口の経歴だが、読売新聞昭和27年11月22日付け朝刊に出ていた。67歳、早大文学部卒、明治43年神田錦町署を振り出しに高輪、築地署などを経て、昭和2年富坂署警部を最後に退職。戦後は隠居して、作詩や読書三昧の傍ら、新聞に出た美談の主に感謝の詩を贈っているという。警察を退職した後に戦後まで何をしていたかは記載されていなかった。記事に付け加えれば、明治42年早大英文学科卒である。
『民衆新報』と共に写真をあげているのは、架蔵の『妖怪学』である。ただし、「新発見・井上円了『妖怪学』一心社出版部版 - 神保町系オタオタ日記」で紹介したように、一心社出版部から昭和7年10月発行された物である。これと、山洞書院版(昭和6年2月)、荘文社版(7年10月)、巧人社版(8年9月)の計4社の版が従来知られていたが、妖怪学刊行会版も存在していたことになる。もっとも、広告だけでは必ずしも発行されたとは言えないが、国会図書館サーチによれば佐賀県立図書館が所蔵している。広告によると刊行会の所在地は東京市麹町区飯田町だが、発行人は誰になっているだろうか。
広告には、「妖怪学改版刊行の趣旨」や中館博史「妖怪学刊行に際して」も掲載されている。これらの元となる24頁の内容見本が存在するようで、「日本の古本屋」に金沢文圃閣が8,640円で出品している。文圃畏るべし。
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