神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

天神さんの古本まつりで見つけた慶應義塾出版社印刷の『医学七科問答』(東京医学会社、明治13年)

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 四天王寺秋の大古本まつりと天神さんの古本まつりが終了した。どちらも100円均一コーナーがあって、賑わっていた。大雑把に言うと、四天王寺の100均は白っぽい本(比較的新しい本で見た目もきれい)、天神さんの100均は黒っぽい本(明治・大正・昭和戦前期など古い本で、見た目も黒ずんでいる)が多いという特徴がある。勿論、その時々の参加店や100均に出す不用本の状況で一概には言えないが、大体はそんな印象である。今回、天神さんの100均では、律度羅著・内務省衛生局訳『医学七科問答:産科学図式』(東京医学会社、明治13年5月)を購入。明治の小冊子というだけではさすがに買わないが、奥付を見ると、慶應義塾出版社の印刷なので買ってみた。国会図書館デジコレでインターネット公開されている。『医学七科問答』は、明治12年5月から刊行が開始されたようだ。
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 慶應義塾出版社の歴史は、『慶應義塾百年史』上巻(慶応通信、昭和33年11月)から要約すると、

明治2年 福沢諭吉が新銭座に居た頃、出版を始める。
明治5年8月頃 出版事業を拡大して、慶應義塾出版局とする。
? 事業が盛大になり、組織を改めて合資会社にして、慶應義塾出版社と改めた。著訳書の出版のほか、『家庭叢談』『民間雑誌』などの雑誌新聞も発行。
明治15年3月 『時事新報』を発行することになり、従来の出版事業は中島精一に譲渡し、その後時事新報社と改めた。

 明治12年頃の「慶應義塾出版社発兌書目」という一枚刷りの内容案内の全文も紹介されている。福沢の『西洋事情』『学問[ノ]スヽメ』や古典SFファンにお馴染みのジュール・ヴェルヌの『八十日間世界一周』(川島忠之助訳)などが挙がっている。四屋純三郎編『本朝政体』(四屋純三郎、明治13年5月)や松山誠二訓註『生理訳語集・音引』(雪傑書屋、明治13年4月)なども挙がっているので、作成時期はもう少し降るだろう。この書目には、奥付で慶應義塾出版社が出版人とされているものだけでなく、売捌所の一つである本も含まれている。しかし、今回見つけた『医学七科問答』は挙がっていない。
 図書館のOPACには、「印刷所」という項目はない。データベースであれば、「近代書誌・近代画像データベース」の初期設定にはないが、クリックすれば「印刷所/印刷者」を選択できる。残念ながら、同データベースには慶應義塾慶應義塾出版局(社)を印刷所とするものはなかった。天下の慶應なので、慶應義塾出版社については研究されつくしたであろうが、本書の存在は御存知だろうか。