村山知義の構成派の舞台装置が絵葉書になっていて、謎の人物による書き込みがあったことは「村山知義の舞台装置「朝から夜中まで」(築地小劇場)が絵葉書になっていた」で紹介した所である。実は、同一人物によると思われる文面がある絵葉書を同じく寸葉会で入手している。使用済みのためか、300円。写真をあげた絵葉書である。表面は、宛先も発信者もなく、切手も貼られていない。文面は次の通りである(適宜句読点を補った)。
此月の築地、チャペックの「虫の生活」の三幕目です。可成り露骨な風刺喜劇です。ゴーゴリの「検察官」とは違ったものですが、同じく感じることは喜劇の「難しさ」です。
舞台の中央に立ってゐるのが浮浪人に紛[ママ]した土方氏お気に入りの千田是也です。
チャペック兄弟の「虫の生活」は、大正14年4月15日から24日まで築地小劇場第26回公演として上演された。訳北村喜八、演出土方与志、舞台装置吉田謙吉。この絵葉書と同じ写真が水品春樹『築地小劇場史』(日日書房、昭和6年6月)の口絵に見られる。同劇場には金星堂書店の売店があったので、そこで絵葉書が売られていたか。村山の舞台装置の絵葉書といい、今回の絵葉書といい、発信者も相手方も演劇好き、文学好きだったようだが、どういう関係でどのようにして渡した(又は渡せなかった)のか。本ではないが、痕跡本の古沢和宏氏ならどのような物語を想像するだろうか。