神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

究極の精神療法ーー川上又次「日本心象学会」による遠隔施術ーー

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寸葉会で川上又次の日本心象学会関係史料を拾う。2,000円。何回か見かけたが、やや値が張るので買うまで時間がかかった。吉永師匠なら速攻で買っただろうか。写真の『遠隔施術申込書』のほか、昭和2年8月付け大阪の西川某宛の封筒や送り状もあった。送り状には「本療法に就いて精記せる『霊気療法と其効果』」を同封した旨が書かれているが、冊子はなかった。また、西川某は遠隔施術を申し込んだようで、同学会附属施術部からの通知書もあって、同月22日午後8時30分から30分間と今後7日間同時刻に施術する旨が書かれていた。「遠隔施術とは究極の精神療法だなあ」と感心して、購入。
「精神療法」については、昨年刊行された好著、大谷栄一・菊地暁・永岡崇編著『日本宗教史のキーワード 近代主義を超えて』(慶應義塾大学出版会、平成30年8月)に平野直子先生が執筆しておられる。この中で「「暗示」「催眠」「お呪い」「信仰療法」といった言葉が示すように、ここ*1で言う精神療法は精神に働きかける*2、あるいは精神を操作して心身の不調を治す方法」としておられる。平野先生の言う「働きかける」あるいは「操作」する「精神」は、どちらも被術者の精神と読める。しかし、同書の吉永進一「霊術」には、「精神療法とは、信仰や暗示などの心理操作を用いる療法であると同時に、精神力という未知のエネルギーを用いる治療でもあった」とあり、術者の精神(力)による治療という側面もあったはずである。もっとも、平野先生の言う「精神」のうち後者の「精神」を術者の精神と解すればよいのかもしれない。
被術者と対面せずに行う遠隔施術(遠隔治療)については、かつて京大UFO超心理研究会において新入生を連れて行くのが恒例であった生体エネルギー研究所々長の井村宏次先生の『霊術家の黄金時代』(ビイング・ネット・プレス、平成26年5月)「第三章清水英範と霊術家の時代」に次のようにある。

遠隔治療=患者の氏名生年月日と病名を知らせると術者が治療念力の送念時間を返信してくる。約束の時間に患者と家庭は祈りの受入体制をととのえて待つ。一方、術者は治療念力を込めることになっている治療方式で当時広く行われた。術者が念じやすいように写真や肌着を送ることもあったーー筆者注

遠隔治療は、交通不便地に住む患者や重篤で身動きできない患者には便利であっただろう。もっとも、何月何日何時に念じておくよと言われてもあまり有り難みはなく、やはり難病も治したと噂の先生に対面して、手をかざして貰ったり、祈って貰った方が痛みが緩和したり、動かなかった部位が動くようになった気がするかもしれない。そのため遠隔治療は流行らなかったのではないかと思ったが、そうでもなかったようである。井村先生が引用する霊界廓清同志会編『破邪顕正霊術と霊術家』(二松堂書店、昭和3年6月)「鈴木精神療養院主鈴木天来」の項には、

誰れやらが、遠隔治療を罵つて、
 其の時間術士茶の間で昼寝かな
と駄句つたのを見たことがある。これを知らないものは、広告にツラれて遠隔治療を頼むらしい(略)
同君は(略)毎月主婦之友社に「遠隔治療」の広告を出して居る。そして同誌の読者には可成り依頼者もあるやうだ(略)

とある。まさしく、「信じる者は救われる」である。

日本宗教史のキーワード:近代主義を超えて

日本宗教史のキーワード:近代主義を超えて

*1:文藝春秋昭和10年4月号「民間療法批判座談会」と昭和8年日本医師会の資料

*2:「働きかける」に傍点