最近刊行された柳与志夫・田村俊作編『公共図書館の冒険ーー未来につながるヒストリーーー』(みすず書房、平成30年4月)第5章は河合将彦氏の「図書館で働く人々ーーイメージ・現実・未来ーー」である。ここに出納手という図書館員の職種が出てくる。
「出納手」は、聞きなれない言葉だろう。戦前は閉架式の図書館が多く、利用者の請求を受けて、主に少年の出納手が資料を出納した。
夜学に通いながら図書館に勤める少年が多かったらしい出納手だが、身分としては傭人扱いで職員名簿には名前が載らない場合が多かっただろう。例外的に後世に名前が残った出納手として、「ある帝国図書館員の死」で紹介した事故死したため名前が伝わった例がある。
さて、坂本宮尾『竹下しづの女ーー理性と母性の俳人1887-1951ーー』(藤原書店、平成30年7月)を見てたら、俳人竹下しづの女は昭和9年から14年まで福岡県立図書館の児童室係の出納手だったという。しづの女は明治20年福岡県京都郡稗田村生、39年福岡県女子師範学校卒業、福岡県立小倉師範学校の訓導などを務めた。女性でかつ高学歴とあって戦前の出納手のイメージとはかけ離れたものがある。更に福岡県立図書館月報に「児童図書館の諸問題」という論考を発表している。ただの出納手ではなかったわけだ。残念ながら『図書館人物事典』(日外アソシエーツ、平成29年9月)には登場しない。
出納手時代の句が極めて面白い。
日々の足袋の穢しるし書庫を守る
紋のなき夏羽織被て書庫を守る
書庫瞑く春盡日の書魔あそぶ
既に陳る昭和の書あり曝すなり
白足袋で羽織を着て書庫から出納したり、曝書する姿が目に浮かぶようだ。坂本氏によると、「書魔」は、「薄暗い書庫のなかになにかが潜んでいるように感じたしづの女の造語」だという。書庫に潜む書魔、なにか小説のネタに使えそうだ。
そして、憲兵隊による検閲も詠まれていた。
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*1:にすいに「互」