神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

西式強健術で健康維持に努めた獄中の蔵原惟人

蔵原惟人『藝術書簡』(青木文庫、昭和27年9月)は「瑞香書房」の値札が付いているので、西部古書会館で買ったのだろう。蔵原の署名入り。読んで見たら、獄中の蔵原が西式強健術をやっていた。昭和7年7月21日付け蔵原惟郭宛書簡によると、

昨日身体検査の時目方をはかったら約十六貫程ありました。外にいた時よりずっと殖えています。ここに来てからも毎日毎晩二回宛西式強健術をやっていますし、その他に朝のラジオ体操と毎日三十分ずつの屋外運動とがありますから、体はこれからよくなる一方です。

蔵原が西式強健術を始めたのは、同年8月27日付け山田清三郎宛書簡によると、山田が『サラリーマン』に獄中の健康法を書いていたのに従ったらしい。同書の解説(小田切秀雄)によると、蔵原は同年4月に非合法下の日本共産党中央部の一人として特高警察に逮捕され、3ヶ月半の留置場生活をおくった後、7月16日起訴され、同月18日豊多摩刑務所の未決に移り、市ヶ谷でのそれを含めて2年間の未決監生活を経て10年4月に刑が確定、同年5月札幌刑務所に送られたという。
その他本書で目に留まったのは、
・『東京堂月報』を毎月差し入れてもらって新刊情報を入手していたこと
・辞典については差し入れの冊数制限がなく、何冊手元に置いてもよかったこと
昭和7年8月2日付け蔵原終子宛書簡に「昨、八月一日遠地輝武という人が、お祝いの弁当差入れてくれましたが、ちょっと思い出せないので、どういう人だかそちらに分っていたら知らせて下さい」とあること
昭和8年8月25日付け蔵原終子宛書簡に「もし[原稿が]帰って来たら他の原稿と併せて春陽堂の世界名作文庫の中に入れてもらうように、仲小路君か熊沢君に話して下さいませんか?」とあること。「仲小路」は仲小路彰だろう。「やはり春陽堂の編集者だったか、仲小路彰」参照。
・差し入れてもらった鳥居龍蔵『人類学及人種学上より見たる北東亜細亜』が面白かったので、鳥居の他の本も頼んでいること