『ちくま』で連載されていた出久根達郎「謎の女幽蘭」(連載時は「幽蘭」)が単行本になったので読書中。『ちくま』を入手できた時だけ読んでいたので、入手できなかった回を読めてありがたい。出久根氏が出席したという手書き古書目録に関する座談会というのが、95頁に出てくる。
その頃、一世を風靡した趣味の季刊誌があった。主宰者が古書と陶磁器の収集で鳴らしたかたで毎号、古書業界の動向を、少なからぬページを割いて報じていた。ある号で、手書き古書目録の流行が、特集で組まれた。私は呼ばれて誌上座談会に参加した。出席者は、地方の古書店主が三人と、客が二人の、計五人である。
「その頃」とは古本屋芳雅堂の開店(12頁に昭和48年8月開業とある)からまもなくの頃である。「芳雅堂」は出久根氏が実際に開業していた古書店だが、本書は小説仕立てでどこまでが事実に即した記述かはわからない。twitterで本件を話題にした時に、畏友の書物蔵氏から『季刊銀花』ではないかと御教示を得た。その後、総目次が掲載された同誌161号(平成22年2月)を見たが、載ってないようだ。もっとも、字が小さいので見落としているかもしれない。『日本古書目録大年表ーー千代田区立千代田図書館所蔵古書販売目録コレクション』(金沢文圃閣、平成27年1月)所収の鈴木宏宗「古書販売目録の効用ーー『日本古書目録大年表ーー千代田区立千代田図書館所蔵古書販売目録コレクション』刊行によせて」にも言及はない。林哲夫さんが何か御存じないかしら。
本書のテーマである謎の女本荘幽蘭については、私も調べたことがある。たとえば、本書24頁に引用されている高田義一郎『らく我記』に出てくる幽蘭が大正8、9年頃使っていた名刺での肩書き「教育講談師」について、妹尾義郎の大正8年の日記に「教育講談師本荘幽蘭尼」との記載があることを発見している(「教育講談師本荘幽蘭と妹尾義郎」参照)。黒岩比佐子さんが生きておられたら、幽蘭に関してもっと追加する情報があっただろう。
追記:「古書目録の「晴れ着」」『出版ニュース』昭和61年6月中旬号(『[大増補]古本綺譚』(平凡社ライブラリー、平成21年12月)所収)に、
五年前の夏、私は「書宴」という販売目録を創刊した。手書きで四十頁のものをコピーした至って粗末な型録である。
とある。
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