ほっておいた、菅野聡美『<変態>の時代』(講談社現代新書、2005年11月)を遅ればせながら読んだ。
ここで自己紹介させていただきますと、私は日本政治思想史を専門とする大学教員です。政治と恋愛?と不思議に思われるでしょうね。事実、この分野で恋愛を取り上げる人は、あまりいません。(略)
私の意図は、「変態」という誰もが知っているけれども、学問対象とはならない概念を手がかりとして、大正期の性をめぐる知的状況の一端を明らかにすることにあります。
とあった。
中村古峡、北野博美、折口信夫、宮武外骨、南方熊楠、江戸川乱歩、岩田準一、梅原北明などといった、名前を知っていて何となくわかったような気になっていた人物について改めて交通整理ができた。武侠社の『犯罪科学』も出てた(汗
この手の本は、すぐに品切れになりそうだから、古本好きの人は、今のうちに入手しておこう。
菅野さんが、「変態」を研究するにいたった経緯については、講談社のPR誌『本』(2005年12月号)の「政治思想学者が「変態」を研究するわけ」に詳しい。
それによると、彼女は慶應の修士を修了*1。現在は琉球大学助教授。研究方向を決定づけたのは、松山巌『乱歩と東京』だったという。そして、
日本政治学会会員の中から「性と政治」という課題にそった研究者を集め、研究会を開き論文集を出すことになった。(略)
何とか集められたメンバーの多数は女性で、各人のテーマも女性の政治参加や男女平等といったものが中心であった。それらのテーマの重要性は十二分に認識しているが、「性と政治」という大きなテーマがジェンダーとか女性の問題に収斂してしまうのが私には残念でならなかった。
私は根がオッチョコチョイなので、こうした閉塞状況を打破すべく、業界を震撼させるような斬新なテーマをと考え、後先考えずに「変態」をテーマとしてぶちあげたのであった。(略)
その後、東大図書館の地下書庫で「変態心理」の復刻版を読みふける日々を経て、何とか件の「変態研究序説」を書き上げ年報*2に掲載したのだが、論文に対する反響は皆無、全くの黙殺であった。
東大図書館の地下書庫で、「変態心理」を読む姿を想像して、乱歩が土蔵で蝋燭の灯りを頼りに執筆していたという伝説(ウソ)を思いだしてしまった。地下書庫とは言っても、薄暗いことはないのであろう。入ったことはないから、知らないけど・・・
女性が「変態」を研究するのは、色々御苦労が多いと思われるが、皆で今後の健闘を祈ろう。沖縄在住ということだから、古書展で彼女の雄姿を見られないのは残念である。
追記:齋藤希史『漢文脈と近代日本』(NHKブックス)を店頭で見る。谷崎潤一郎の作品も俎上にのせられていた。