神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

探偵趣味の会にこぞって入会した春陽堂の関係者

浜田雄介編『子不語の夢 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』(乱歩蔵びらき委員会、平成16年10月)を読んでたら、大正14年4月に乱歩、春日野緑、西田政治、横溝正史らにより創立された探偵趣味の会に、春陽堂の島源四郎の紹介で斎藤龍太郎ら3名が入会していたことがわかった。乱歩の不木宛同年8月2日付け書簡に、

春陽堂の島氏の紹介で、斎藤龍太郎、池田孝次郎、細田源吉諸君が入会致しました。島氏も入会して居ります。

とある。同書の脚注(以下単に「脚注」という)には「島氏」は「編集者の島源四郎」としかないが、「島源四郎物語」を参照されたい。稲岡勝監修『出版文化人物事典』(日外アソシエーツ、平成25年6月)にも立項されていて、より詳しく書かれている。
細田は、脚注によると早稲田大学文学部英文科卒業後、春陽堂に入社し、『新小説』『中央文学』の編集に従事。細田春陽堂社員だったことがわかる。『日本近代文学大事典』によれば、大正4年12月入社、6年辞職。
斎藤は、脚注によると大正10年早稲田大学西洋哲学科卒、12年『文藝春秋』編集同人、のち同社社員となり、昭和15年編集局長云々とある。春陽堂との関係は記されていない。ところが、三田村鳶魚の日記*1によると春陽堂の社員だった可能性がある。

(大正十三年)
七月五日(土)
(略)◯新小説の原稿十日までにと斎藤竜太郎氏より手紙あり、とても。(略)
十一月二十八日(金)
(略)◯斎藤竜太郎氏来り、春陽堂より拙著刊行の所望ありとの相談あり、追て店員来談云々(略)

第2次『新小説』は春陽堂明治29年7月に創刊した雑誌。これだけで春陽堂の社員だったと断定してよいかは疑問で、島が『日本古書通信』昭和59年11月号に書いた「出版小僧思い出話(5)」には、

昔、春陽堂で「新小説」を出していた時分、菊池先生と芥川先生に一時編集をお願いしていたんです。その時分菊池先生の門下生というのか、斎藤龍太郎さんと、鈴木氏亨さんの二人が、ほとんど「新小説」の編集事務をやられて、菊池先生がいろいろ面倒を見て下すっていたんです。

とあって、社員という立場とは違うのかもしれない。
池田については、脚注に記載はない。おそらく同一人物と思われる人物が、『文章倶楽部』大正14年1月号の「現代文士録」に出ている。明治24年2月25日日本橋区坂本町生、京華中学中退。「数種の研究、小品、評論等がある」という。現住所は東中野上ノ原。同号の「私の初めて得た原稿料」というアンケートには、『サンエス』という雑誌に「永日」という小説を書いて20円もらったと回答している。また、素人社編『現代俳家人名辞書』(素人社書店、昭和5年12月)には、同じ生年月日で同じ坂本町に生まれた雅号を「痴鵠」という同名の人物が載っていて、「著述業。「土上」同人。砧吟社の世話役」とある。現住所は川崎市幸町。池田も三田村の日記によると、春陽堂の社員だった可能性がある。

(大正十四年)
九月十四日(月)
(略)◯島源四郎、池田孝次郎氏、新刊鳶魚劇談五冊持参。(略)
(大正十五年)
五月二十六日(水)
池田孝次郎氏、写本解題の計画、(略)
六月十二日(土)
(略)◯池田孝次郎氏、写本解題を口授、同氏の都合にて二十日より引継筆受の筈。(略)
七月十四日(水)
(略)◯池田孝次郎氏写し物持参、文章往来西村豊吉と挈へ来る、来月中五枚ほど寄稿の筈。(略)

『鳶魚劇談』は春陽堂から大正14年9月発行。『文章往来』は大正15年1月に春陽堂から創刊された雑誌。この他、池田と島はしばしばセットで名前が出てくる。また、「「発禁本」三田村鳶魚『瓦版のはやり唄』をめぐる謎」で紹介したように、池田は三田村が春陽堂から出す『瓦版のはやり唄』について内務省と発禁に関する交渉中という情報を知っている。ただ、島は『日本古書通信』昭和59年10月号の「出版屋(ママ)小僧思い出話(4)」では、

(略)三田村先生のお仲間というのか、知り合いの学者ではなく在野の研究者達が集まりまして、西鶴の研究者達が集まりまして、西鶴輪講を始めていただいたんですが、その編集や速記のまとめ役を、池田孝次郎さんと柴田宵曲さんがやって下すったんです。(略)

と池田に言及しているが、社員だったとは書いていない。
以上、明確に春陽堂の社員だったのは、島と細田だが、斎藤も池田も春陽堂とは深い関係があったということで、春陽堂の関係者4人が探偵趣味の会の会員だったということになる。
追記:『伝記』昭和11年4月号から9月号まで(7月号は休載)連載された「伝記研究家一覧」をまとめた『二級河川』15号(金腐川宴游会、平成28年5月)のトム・リバーフィールド「雑誌『伝記』と「伝記研究家一覧」」に、池田は「東京市史編纂員」とある旨御教示いただきました。

子不語の夢―江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集

子不語の夢―江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集

*1:三田村鳶魚全集』26巻(中央公論社、昭和52年5月)