荒木優太『これからのエリック・ホッファーのために 在野研究者の生と心得』(東京書籍、2016年2月)で取り上げられた平岩米吉。昭和9年の『動物文学』創刊前に『変態随筆』なる雑誌を出していたというので、より詳しい片野ゆか『愛犬王平岩米吉伝』(小学館、2006年4月)を見てみた。すると、
(略)米吉は、翌年の昭和六年に『変態随筆』と『母性』というふたつの雑誌を刊行した。
『変態随筆』は、子どもを生み育てる女性だけにできる性と生命について探求する内容だった。体裁はオールグラビアの小冊子で、「平岩米吉個人雑誌」として不定期に七号まで出版された。(略)特集は毎回、性の神秘、尊さなどを各方面から分析・紹介するものだった。とどまることのない探求の結果、人獣交婚を扱った号が発禁処分をうけるということもあった。
ということで、発禁年表の昭和6年の新聞・雑誌の部を見るも見当たらない。発行年と発禁年に間があく場合があるので、7年以降を見てもない。索引がないので不便。こういう時は、『雑誌新聞発行部数事典』(金沢文圃閣)を見ませう、ということで見てみたら、単行本扱いで『変態随筆第4輯ーー産婦人科的文献集』が昭和6年12月発行で8年9月風俗壊乱により発禁。発禁年表にも単行本として挙がっていた。
『出版警察報』62号、8年11月の「出版法ニ依ル出版物差押統計表」の「二風俗之部(2)雑誌」によると、東京府碑衾町自由ヶ丘の白日荘から150部発行され差押数7部。どこかに残ってないかのう。発禁になった理由だが、『出版警察報』61号、8年10月によると、
本法(ママ)所載ノ「受胎に対する古人の思想」ト題スル記事不敬並ニ卑猥ニ亘ルヲ以テ禁止、摘記スレバ左ノ如シ。
とある。問題となった箇所は、
雄略天皇紀にあつても、一釆(ママ)女が一宵にして女子を生めるを天皇疑ひて養ひ給はず(略)「朕一宵與はして娠み、女を産めること常より殊し。是に由りて疑を生ず」と。大連曰く「然らば即ち一宵に幾廻か喚しゝ。」天皇曰く。「七廻喚しき。」云々である。これでは正に「終宵」に相違ない。
この処分以外に「人獣交婚を扱った号」の処分があったのだろうか。
追記:平岩由伎子編著『狼と生きてーー父・平岩米吉の思い出』(築地書館、1988年3月)82頁に、
「母性」と同時に発行された「変態随筆」はオールアートの小冊子で、シュトラッツの「女性美の研究」などをのせたりしていましたが、そのうち人獣交婚などを取り上げたために発禁処分になったこともあります。「変態随筆」で今でも私に印象深いのは、表紙のうちにいたインドジャッカルの顔の写真と、子宮内で本来は胎盤になるべき絨毛が異常に増殖して葡萄の房のようになってしまった葡萄状鬼胎(現在では胞状奇胎といわれています)の写真です。
とある。
別冊太陽『発禁本Ⅲ』に『変態随筆』全5輯(昭和6年4月〜7年5月)の書影掲載。第5輯「狼狩の話」の表紙が「印度狼の子」。第4輯は「(「伏字表」付)(昭和8年9月12日、風俗禁止)」とある。
- 作者: 片野ゆか
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