神保町系オタオタ日記

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岡本橘仙や金子竹次郎らの読書会記録『列子天瑞篇之研究』ーー黒田天外の旧蔵書かも?ーー

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3月お誘いをいただいて、亡くなられた某先生の蔵書処分に参加した。ありがとうございました。先生と直接の面識はないが、退官記念シンポジウムを拝聴させていただいたし、横山茂雄さんや吉永進一さんの古本仲間であったので知り合いの知り合いということになる。御専門から言って洋書が多そうなので、研究者の方々のおこぼれから和書を数冊いただく気持ちで臨んだ。ところが、書庫に入った途端に積まれたケースの中に「ピラミッドの友」の文字を発見して、そんな謙虚さは吹っ飛んでしまった。研究者の皆様が単行本を見ている隙に良さげなケースを確保した。今回紹介するのは、『列子天瑞篇之研究』。104丁、奥付はない。
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扉のとおり、岡本橘仙講述・金子青存筆録である。金子の「例言」によれば、本書は大正7年10月から8年3月まで洛東高台寺葛原荘で10回に亘り岡本が読書会会員のために講演したものを金子が筆記したものである。また、岡本の「序」(大正14年3月付け)には、読書会の再興を機に筐底に蔵していた筆記を先の『楊朱の研究』と同形式で印行したという。
岡本の周辺で金子と言えば、甥の金子竹次郎が浮かぶ。杉田博明『祇園の女:文芸芸妓磯田多佳』(新潮社、平成3年1月)によれば、金子の遺族の家に岡本・金子・磯田3人による席画が残されていて、岡本による箱書きに「青存子就多佳女学河東之声曲有年大正丁巳*1六月予養痾于東山葛原之僑居多佳女亦随青存常来(略)」とあり、「青存子」は金子だという。夏目漱石谷崎潤一郎吉井勇との関係でも知られる岡本と金子が大正期に読書会を開催していたとは、これまで知られていないだろう。「京都の文人宿万屋主人金子竹次郎が残した日記 - 神保町系オタオタ日記」や「『京都人物山脈』(毎日新聞社)に万屋主人金子竹次郎 - 神保町系オタオタ日記」で金子について多少調べた私も驚いた。
更に扉には「読書会印」と共に「黒田」の印が押されている。直感的には、「京都スターブックス出品の戦前版『洛味』で美術記者黒田天外の没年を特定 - 神保町系オタオタ日記」や「昭和14年3月8日まで生きていた京都日出新聞記者黒田天外 - 神保町系オタオタ日記」で紹介した黒田天外だが、裏付けるものは何もない。黒田という人の旧蔵書が1冊市場に出たのであれば、他の本も処分されたのかもしれない。そこに黒田天外に繋がる痕跡はないだろうか。亡くなられた先生はどこで本書を見つけたのだろう。