神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

日本大学総長山岡萬之助が主宰した宗教雑誌『宇宙』(宇宙社)と大東信教協会

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先日の人文研における古本バトルに引っ張り出されて、『宇宙』など3誌を紹介。『宇宙』についてはあまり調べずに臨んでしまったが、その後色々判明したので補足しておこう。『宇宙』8巻3号(宇宙社、昭和8年3月)を見つけたのは、今年の知恩寺の古本まつりに行く途中の吉岡書店で発見。1,000円もするのでまつりの初日に見つけながら迷ったが、何日経っても売れ残っていたので、購入。「宇宙」というタイトルだけ見て、手にしたことのあるSFファンもいそうだが、表紙の上の方にあるように宗教雑誌である。目次の写真を挙げておく。
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大谷尊由「親鸞教義の文化的倫理的地位」や紀平正美「宗教信仰の三階段ーー神道精神を基調としてーー」のような固い記事もあるが、浅井謙吾「霊は実在するか 前東北帝大総長井上仁吉博士に聴く」や補永茂夫「心霊実験会に立会つて亡父の霊と語る」のようにオカルト記事もある。目次からわかるように本誌は仏教・神道キリスト教などの特定の宗教・宗派に偏らない一般宗教雑誌である。本号の前後の号を見たが、
中山忠直「日本人の強さの原因はどこにあるか」(昭和8年6月)
鳥居龍蔵「満蒙の宗教」(同年7月)
福来友吉「我が国民性と霊魂不滅」(昭和9年1月)
金子白夢「宗教勃興期に際してーー宗教人格への待望ーー」(同年10月)
など、拙ブログでお馴染みの人が執筆していて良さげな宗教雑誌である。安食文雄『20世紀の仏教メディア発掘』(鳥影社、平成14年8月)に「企画のユニークさもあって人気が高く、現在でも古書値が高い」とあるわけである。最近読んだ目時美穂『油うる日々:明治の文人戸川残花』(芸術新聞社、平成27年3月)によれば、戸川が巌本善治とともに明治28年7月に創刊した『日本宗教』も特定の宗教・宗派の布教宣伝のために作られたものではなかったという。こういう一般宗教雑誌はあまり研究の対象とされないだろうが、『宇宙』は日本大学総合学術総合センター天理図書館などを合わせると、創刊号(大正14年3月)から終刊号?(昭和19年9月)まで揃うので、誰か研究してほしいものである。
本誌の表紙に「山岡萬之助監修」、奥付の編輯発行兼印刷人に「宇宙社内/椎名正雄」とあるが、主宰者は山岡だったようだ。8巻10号,昭和8年10月に「宇宙社会長山岡萬之助博士」が日本大学総長に就任したという記事がある。また、昭和9年版『仏教年鑑』の「現代仏家人名録」によると、椎名は明治30年2月15日生、日本大学宗教科卒、日本大学主事で『宇宙』編輯とあった*1。吉永さんから日本大学宗教科と関係があるのではないかと言われて、山岡は法学博士だから関係ないでしょうと言ってしまったが、関係あるかもしれない。そもそも日本大学宗教科は、初代学監だった山岡が推進して大正6年4月姉崎正治を顧問として設置されたものである。編輯を担当した椎名が日本大学主事で、執筆者も同大学関係者が多い。ただし、日本大学が組織として関与したのか、学長・総長だった山岡が個人として発行していたかは不明。なお、宇宙社の所在地は丸ノ内海上ビルである*2
本号に掲載された記事を紹介しておこう。先ずは、浅井による井上前東北帝大総長へのインタビュー。

浅井 そうしますと日本的キリスト教といふのはどういふことになりませうか。
井上 (略)一寸脱線する様ですが、私は嘗て小谷部全一郎氏の「日本国民の起源」といふ本を大変面白く読みましたので此際一寸お話して見ませう。(略)日本に来た此の種族(略)こそ本当の神の撰民であり旧約に記るされた如く世界を支配する国柄だ、と神道者である小谷部氏は非常に愛国的熱情に燃へて結論をいふのです。斯うした説に近いものは大本教日蓮宗の田中智学氏等も説いてゐるが小谷部氏は科学的に推論されてゆくので大変面白いと思つたのです。

井上は小谷部の日ユ同祖論を全く正しいとすることはどうかとも言っているが、だいぶ信じていた様子がうかがえる。この井上博士、見覚えがあると思ったら「内務省検閲官が残してくれた田多井四郎治・小寺小次郎の『神代文化』(神代文化研究所) - 神保町系オタオタ日記」で言及した偽史運動を推進した神代文化研究所の所長であった(*_*)
補永の記事は、父親だった神道学の権威で日本大学教授だった故補永茂助の霊を交霊会で呼び出した記事である。詳しくは『婦人世界』に載っているようだが、小田氏や亀井霊媒が出てきて、小田秀人と亀井三郎だろう。
「今様フランチエスコ」を書いた立花國三郎については、「司書官山田珠樹 - 神保町系オタオタ日記」で言及した元カトリック神父である。東京帝国大学附属図書館職員だったが、館長だった姉崎により日本大学へ送り込まれたのだろう。
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宇宙社との関係はわからないが、本号には「大東信教協会々則」が載っている。大東信教協会は日本宗教会を改称したもので、第5条に会員には宗教哲学雑誌の雑誌を配布とあるので、それが『宇宙』なのだろうか。創刊号を見れば、わかるかもしれない。
ところで、山岡が主宰したこの『宇宙』、今泉定助もしばしば寄稿しているが、2人とも並木軍平の皇道図書館の名誉顧問であった。もしかしたら、皇道図書館に関する記事が載っているかもしれないだすよ。

*1:昭和13年版『仏教年鑑』の「現代仏教家人名録」には、「目下『大神道』誌の続刊を企つ」とある。

*2:このビル内には、大正7年8月に創立された赤星鉄馬の啓明会の事務所も入っていた。