神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

昭和17年民族学者杉浦健一が佐藤生活館で南方派遣者(?)向けの講演会ーースメラ学塾の南方指導者講座との関係ーー

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 山路勝彦編著『日本の人類学:植民地主義、異文化研究、学術調査の歴史』(関西学院大学出版会、平成23年8月)に、民族学者で元南洋庁嘱託の杉浦健一が昭和17年7月3日佐藤生活館で行った講演(民族学よりする原住民に対する対策)の原稿が翻刻されている。同館については、「財団法人佐藤新興生活館生活図書館旧蔵の仏教社会学院編『新興類似宗教批判』 - 神保町系オタオタ日記」で紹介したことがあるので注目した。館を建設した「財団法人佐藤新興生活館」は、昭和16年3月有馬頼寧大政翼賛会事務総長を会長として受け入れ、同会との提携強化を打ち出し、翌4月「大日本生活協会」と改称し、会館名を「佐藤生活館」と改称していた*1
 この講演の主催者が不明で、堀江俊一「杉浦健一講演遺稿 解題」には、「おそらくは帝国海軍関連の「南方派遣者のための講習会」といった、外部に閉ざされた種類のものであったと考えられる」としている。実は、この時期は「情報官鈴木庫三とクラブシュメールの謎(その22) - 神保町系オタオタ日記」で言及したスメラ学塾が「南方指導者講座」を開催していた時期である。ただし、スメラ学塾はもっぱら共立講堂を使っていたので、同じ神田区でも佐藤生活館を使う可能性は低そうである。
 仲小路彰や小島威彦が率いたスメラ学塾小牧実繁らの綜合地理研究会との密接な関係は、柴田陽一『帝国日本と地政学アジア・太平洋戦争期における地理学者の思想と実践』(清文堂出版平成28年3月)に詳しいところである。また、小島と国民精神文化研究所で同僚だった法人類学者増田福太郎や宗教学者堀一郎については「元台北帝国大学教授で法人類学者だった増田福太郎の教職追放ーー増田は、藤沢親雄・小島威彦・堀一郎らとムー大陸の夢を見たかーー - 神保町系オタオタ日記」などで言及した。しかし、スメラ学塾と杉浦との接触は確認できない。やはり、無関係なのだろう。

*1:松田忍『雑誌『生活』の六〇年ーー佐藤新興生活館から日本生活協会へーー』(昭和女子大学近代文化研究所、平成27年3月)参照