神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

神戸学生青年センターの古本市で国内の図書館にない『天才児福永寛』を発見

今年も神戸学生青年センターで3月15日(金)から5月15日(水)まで「六甲奨学基金のための古本市」が開催されます。文庫・新書は100円、単行本は300円というお得な古本市である。全国から寄付された本を販売し、売上は留学生支援活動のための六甲奨学基金の一部にするという。神戸市内の古本屋がせどりに殺到するという噂を聞いたことがあるが、真偽の程は不明である。
さて、私は数年前にこの古本市で三輪治家『天才児福永寛』という箱付きの黒っぽい本を拾った。多分前年にも見たような気がするが、題名からてっきり陳腐化した教育学の本かと思って手に取りもしなかったと思う。ところが、その年は他に買う物が無かったので、黒っぽい本だし奥付だけでも見てみようと、箱から取り出してみた。すると、発行所は布哇ホノルル市の松坂屋書店、発行者は同市の松坂茂昭和4年5月発行*1。これは珍しそうな本だと購入。国会図書館サーチやCiNiiではヒットしない。内容は、戦前ハワイのアメリカ人及び日系人社会を戦慄させた事件を扱ったものであった。昭和3年福永寛というハワイの日系二世の少年(19歳)が信託会社副社長の子供(10歳)を誘拐し身代金一万ドルを要求、身代金は支払われたが、子供は殺されたという事件であった。私は一時期海外移民に関する本を熱心に読んだ時期もあったが、福永のことはすっかり忘れていた。牛島秀彦『行こかメリケン、帰ろかジャパン:ハワイ移民の100年』(サイマル出版会、昭和53年)にもちゃんと出ている。
本書で感心したのは、当初事件の残虐性ゆえに日系人全体への憎しみを抱いたハワイのアメリカ人達だったが、やがて事件の背景に福永家の貧困があることがわかると、福永家に同情の見舞金を寄せる人が相次いだという。アメリカ人の寛容さを如実に示すものである。あと、不思議なのは、福永が身代金を要求する際に、KKK団を名乗ったことである。白人至上主義団体で著名なクー・クラックス・クランのことだと思われるが、福永がどういう意図でそれを名乗ったのかが謎である。
(参考)ハワイで発行された珍しい本は「ホノルルで刊行された高畠華宵装幀の横山松青句集『アイカネ』」でも紹介した。

行こかメリケン、帰ろかジャパン―ハワイ移民の100年

行こかメリケン、帰ろかジャパン―ハワイ移民の100年

*1:印刷は海外之日本社印刷部、印刷者は東京市外大岡山の菊地清雄。裏見返しに「MADE IN JAPAN」とスタンプが押されている。