神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

壽岳文章が『古本年鑑』(古典社)で探求書とした『世界奇王ドン・キホーテ』

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戦前『古本年鑑』という楽しい年鑑が昭和8年から12年にかけて4冊出た。大空社から復刻版も出ているが、私は元版を3冊持っている。どれも裸本だが、カバーや函は見たことがないので元から付いていないか。発行したのは沼津の渡辺太郎がやっていた古典社である。古典社について、詳しくは「金沢文圃閣」のホームページの「『文献継承』20号記念」で読める同誌14号の書物蔵「古本界の重爆撃機!:『古本年鑑』と古典社の渡辺太郎 附.年譜」や同社『『図書週報』ーー昭和前期書物趣味ネットワーク誌』の小林昌樹氏による解題を参照されたい。
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古本年鑑の1935年版の目次を写真であげておく。「古本目録に関する調査」、「古本関係雑誌記事紹介」や「全国古本商名簿」が特に役に立つ。架蔵の本には、「古典社の販売三則について」という紙が挟まっていて、

ハガキ一本の御注文に対し、本を送り、更らに返本自由、送料不要といふ、極めて読書家本位の販売法を断行した小社は、この小さな試みによつて、我が国図書販売制度上に、自由にして公明な、人間的な空気を注入したいといふ理想を持つて居ります。

なんと、後払い、返本自由、送料不要だという。後払いや送料不要(一定額以上の注文に限るだろう)の古本屋は今でもあるが、返本自由をうたう古本屋はいないだろう。もっとも理想と現実は違うのか、「(現在は、販売事務上の便宜より、この販売法を一定期日に限定して居りますから、御諒承を願ひます。)」ともある。
さて、目次にあがっている「探す本」に壽岳文章が出てきた。

京都府乙訓郡向日町上植野、壽岳文章 ○雄島濱太郎訳、世界奇王ドン・キホーテ、明治三十四年刊?*1

壽岳がセルバンテスの『ドン・キホーテ』の翻訳書を探していたのかと思ったが、『壽岳文章書物論集成』(沖積社、平成元年7月)の「『絵本どんきほうて』のころ」によると、昭和4年から柳宗悦を通してケラーというボストンの実業家に頼まれて、ドン・キホーテに関する本を探していたという。雄島の翻訳書もその一環で『古本年鑑』に探求書としてあげたのだろう。「日本の古本屋」で検索すると、あきつ書店が38,880円で出しているので、珍しい本なのだろう。

*1:正しくは、明治35年