これまた『雑誌新聞発行部数事典』を見ていて、「あれっ」と思った一冊。『心霊研究』創刊号(山陰心霊科学研究会、昭和11年4月)、12年3月9日処分だが、心霊雑誌で発禁というのも珍しい、『出版警察報』103号を見ると、松江市で発行されたもので、処分理由は・・・
「心霊現象に関する霊界通信」ト題スル記事(藤原成平署名)ハ我国肇国ノ由来及国史ノ根本事項ヲ曲説紛更シ国体観念ヲ動揺セシメ又ハ皇室の尊厳ヲ冒涜スル虞アリト認メ禁止。
尚本誌ニ対する処分ノ甚敷ク遅延シタルハ創刊当時所定ノ届出納本為シ居ラザリシ所本年二月島根県ニ於テ犯罪容疑ノ点アリトシテ関係者ヲ取調ベタル結果本誌ノ発行ヲ発見シ改メテ処分ニ附シタルモノナリ。
とあった。ありゃ、天皇霊でも呼び出しちゃったのかと続きを読むと、問題になった部分は、
(前略)邇々藝命は太陽神の思召を受け給ひて地球統制の御任務を有ちて御降臨になりましたが先づ其の始めに五組の御分霊を順々に御生れさせられました、即ちその御長男御長女に当られる龍神様が日本国自至黄色人類の先祖であり又その直統係が日本の皇室に当らせられるのであります[。]後の四組の龍神様が私共現在に当らせられることになります。(後略)
であった。
内容からいうと新興宗教関係の雑誌であろうか。松江の心霊雑誌というと木原鬼仏が主宰した『心霊界』が思い浮かぶし、心霊科学研究会というと浅野和三郎が主宰した同名の団体が著名だが、それらとは無関係なのだろう。発禁の端緒となった犯罪容疑については、新聞か特高月報でわかるかもしれないので、今後調査する予定。
なお、『出版警察報』104号「新聞紙、通信、新聞雑誌差押削除執行状況調(三月分)」によると、本誌は200部発行、うち7部差押え。残りは193部、どこかに残っていれば雑誌の詳細がわかるのだが。ところで、同状況調の発行日附(4.25)と処分月日(3.9)は月日だけで年の記載がなく、これに基づいて作成された『雑誌新聞発行部数事典』では発行年を処分年と同じ1937年(昭和12年)にしてしまっている。レアなケースではあるが、発行年と処分年は同一とは限らないので要注意である。