沼野充義「ユーラシア文学宣言 ヨーロッパとアジアをつなぐ世界文学論は可能か?」『UP』9月号はニコライ・レーリッヒ(1874-1947)について、次のように書いている。
画家であり、中世スラヴ世界によく通じていた彼は、一九一三年ロシア・バレエ団による『春の祭典』の舞台美術を手がけたが(『春の祭典』のアイデアそのものが、ストラヴィンスキーでなく、レーリッヒによるものであることが知られている)、その後世界放浪の旅に出て、チベットから中央アジアの大探検旅行を行い、東洋神秘思想を研究して一種の教祖的存在にまでなって、晩年は北インドのクルー渓谷に住みついた。彼については加藤久(ママ)祚による先駆的な伝記もすでに書かれ、僕自信もかつて『is』という雑誌に長期間にわたって彼の生涯の謎を追う評論を連載したけれども、その後事情があって、途絶えたままになっている。真の「ユーラシア的芸術家」としてレーリッヒをこれからぜひ復権させたい。
レーリッヒについては、私も「日本におけるニコライ・レーリヒ受容史」などで言及しているが、沼野氏の評論は未見であった。氏による今後の復権に注目したい。