昨年秋、知恩寺の古本まつりでは、例によって竹岡書店の均一台でくろっぽい雑誌や小冊子を拾えました。今回紹介する『素描』2号(素描社、昭和2年6月)もその内の1冊である。表紙に「デツサン」とあるので美術雑誌かと思ったら、文芸雑誌であった。
発行所の素描社が第三高等学校内にあるので調べてみたら、三高生による同人誌であった。『第三高等学校一覧 自昭和二年四月至昭和三年三月』(第三高等学校、昭和2年7月)から同人の在籍状況をまとめてみた。
『素描』同人
井島勉 理科乙類3年
今中武夫 (大正12年三高文科甲類卒業後、大正15年東大法学部卒を経て昭和2年京大文学部入学)
花田文夫 理科乙類3年
梶野あきら 理科乙類3年
掛見保松 理科乙類2年
高橋寿男 理科甲類3年
中尾常之 理科乙類2年
野々口敏彦 理科甲類3年
佐野次郎 理科甲類3年
下村虎一 理科乙類3年
理科の生徒だけで文芸同人誌を出していた。例外は今中で、文科のOBで昭和2年当時は京都帝国大学文学部の学生であった。同時期に理科では西山夘三、松田道雄、文科では小川環樹、辻野久憲、藤林益三、室賀信夫がいたが、同人でないのが残念。奥付によれば、「京都古書組合のムードメーカーだった若林春和堂の若林正治 - 神保町系オタオタ日記」などで紹介した教科書販売で知られる若林春和堂が本誌を販売した。しかし、売れたとは思えない。今なら文学フリマで売るのだろう。目次も挙げておく。表紙を描いた森脇忠は、三高で図画担当の講師を務めていた画家である。
京都の雑誌ということで、広告が楽しい。オーシス食堂(東門東)、上西ミルクホール(東門前)、簡易熊野食堂(丸太町新道)、上木堂洋服店(丸太町河原町)など。驚いたのは、表紙裏にはテイー・ルームカナリヤ(河原町蛸薬師)の広告があった。「三条河原町にあったカフェーカナリヤとマヴォイスト渋谷修ーー斎藤光『幻の「カフェー」時代』(淡交社)への補足ーー - 神保町系オタオタ日記」で言及した喫茶店である。三高生のたまり場になっていたのだろう。