神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

志ある司書は取りあえず『帝国図書館コレクション案内』(近代出版研究所)を買っとけ!

 
 近代書誌懇話会編著『帝国図書館コレクション案内:請求記号から見た蔵書構成』(近代出版研究所、令和5年12月)を御恵投いただきました。ありがとうございます。
 「本書の意義」によれば、「本書は現在、国会図書館(以下、NDL)が所蔵する本(国会本)の請求記号から、その本の来歴を明らかにする便覧」である。ややマニアックな内容で、門外漢にはよく分からない部分もあった。しかし、「腰掛け司書」ならざる志ある司書の皆様は、取りあえず買っておきましょう。ネットで注文できるが、多分公費対応はしてないので国会図書館(納本されるだろう)を除き、図書館では見られないと思われる。→注文は、皓星社の「帝国図書館コレクション案内 請求記号から見た蔵書構成 | 皓星社ウェブストア
 例示として挙げている国会図書館の蔵書には、特に近代出版研究所長の小林昌樹君の趣味が反映しているようだ。福沢諭吉関係書が複数あるのは、小林君が慶應義塾大学出身だからだろう。また、「羅馬法及古代法」に分類される菊池武夫述・高松太喜次編『古代法』(東京法学院、明治27年)は小林君がローマ帝国史を専攻したためと思われる。その他、西沢勇志智『炭素太閤記』(慶文堂書店、大正15年)*1山下武『書物万華鏡』(実業之日本社、昭和55年)の例示にはニヤリとさせられた。
 さて、本書50頁は、戦後内務省書庫から米軍に接収され米国議会図書館の蔵書となり、昭和51年から53年にかけて日本へ返還された発禁本の蔵書に言及している。しかし、蔵書の例示はされていない。そこで、私の趣味で酒井勝軍『太古日本のピラミツド』(国教宣明団、昭和9年7月)を挙げよう。請求記号は函:特501、号(受入順)は101である。→「太古日本のピラミッド - 国立国会図書館デジタルコレクション
 同書は、国会図書館デジタルコレクションで見られて、内務省の検閲官による発禁の伺い文が書き込まれていて面白い。「天皇ハ日本一国ノ天皇ニ非ズトナシ(四頁)世界ニ君臨スベキ事理ヲ論ズル(一二頁其他)ニ当リ其論証方法トシテ神武天皇以前ノ皇統譜出現及鵜草不葦合朝ノ存在ヲ云為(三一、四七、五四、五五、五七、五八頁)スルハ皇統並ニ国史ニ紛更ヲ来スモノト認ム」とある。事務官や内務省警保局図書課長の決裁印も押されたほか、「神社局考証課同意見」とあるので同省神社局にも意見照会していたことが分かる。
 『太古日本のピラミツド』は昭和9年7月25日発行で、発禁処分は同月27日である。内務省の受付印は同月25日なので、出版法が定める発行の3日前までの届出義務に違反していたことになる。「警視庁(清水)内地殖民地手配、記入スミ」との書き込みもあり、警視庁により直ちに差し押さえられたと思われる。しかし、「国教宣明団から酒井勝軍『太古日本のピラミツド』発行の案内状ー皇明会の四宮憲章宛ー - 神保町系オタオタ日記」で紹介したように事前に発行予告の案内を送り注文を受け付けていたし、内務省への届出も遅れたので、半分しか押収できなかった。これは、『出版警察報』72号(内務省警保局、昭和9年9月)の「出版法ニ依ル出版物差押成績表(七月分)」に記載されている。それによれば、3千部発行で差押部数は1,525冊であった。武内裕『日本のピラミッド』(大陸書房、昭和50年12月)57頁に「大半が国家に没収されたため今や全国に数冊しか残っていないという稀書」とあるが、実際には半数しか没収されていないことになる。ただ、古書市場では滅多に出ず、私も一度だけ東京古書会館で見たが高くて買えなかった。
 ところで、私は米国から発禁本が返還されたというニュースで数冊画面に映った本の中に『太古日本のピラミッド』があったのを今でも覚えている。国会図書館の担当者の中にトンデモ本が好きな人がいたのだろうか。

*1:横田順彌『日本SFこてん古典』(早川書房、昭和55年5月)の「第1回理科読本 炭素太閤記」で紹介された珍本